日本では財政政策の効果が低い?人材の確保がカギを握る

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大を受け、政府は経済対策を実施するために2020年度の1次・2次補正予算で約57兆円を計上している。新型コロナの影響を受けた事業者への給付金や医療提供体制等の強化などの支出に充てられている。


政府は近年金融政策に力を入れてきたが、新型コロナの感染拡大により経済活動が制限されているなかで、マネーを市場に流し込み、需要を刺激する金融緩和のみでは限界がある。そのため、今年度においては過去に例をみない政府支出を中心とする財政政策が講じられている。


無論今回のような事態でなくても、金融政策の実施で既に金利がゼロに近い先進国において、財政刺激策の重要性は高いと考えられる。新型コロナが収束した後も、世界各国では民間の消費や投資を促すための財政出動の動きがこれまで以上に強まるだろう。


しかし、日本をはじめとする高齢化が進んでいる国においては、財政政策がもたらす経済成長の促進効果は比較的低いということが国際通貨基金(IMF)の新しい研究[1]で明らかになった。同研究では、経済協力開発機構(OECD)に加盟する17カ国の1985年〜2017年のデータを用いた統計分析が行われている。結果として、若年層(15~64歳)が多い国では政府支出が経済に大きなプラスの効果を創出する一方、高齢化が進んでいる国の効果はそれよりも低くなることが判明したのだ。その理由として、労働力の増加率が低下している高齢化社会においては、政府の支出が民間の消費や投資に及ぼす影響が弱くなっている点を述べている。また、多くの年金受給者の消費額は、一定あるいは減少していくため財政刺激策の影響を受けないことも一因だと想定されている。そこで、同研究では高齢化が進んだ国の政策当局に、女性の労働市場への参加を促す政策や、労働市場のニーズに基づいた移民受け入れ政策など、いわゆる「労働供給の増加を狙った構造政策」を提示している。高齢化が進んでいるなかにおいても、若年層の労働力を確保することで消費や投資の活発化が期待できるというわけだ。


日本の公的債務残高は名目GDP比で約200%と、世界最高となっている[2]。さらに、内閣府が7月31日に示した経済と財政の見通し「中長期試算」では、2020年度の基礎的財政収支の赤字額は前年度の4.7倍となる約67.5兆円を想定している。それにともない、公的債務残高はさらに膨らむのだ。日本の足下の状況において政府支出は必要不可欠ではあるが、債務が増加する一方、財政刺激が経済成長に与える影響が小さいという事態を継続させないためには、上述のような人材確保対策など、あらゆる策を探っていく必要があろう。


[1] 本多次朗、宮本弘暁、「高齢化する国では財政刺激の効果が低い可能性」、国際通貨基金、2020年8月17日(https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/08/17/chart-of-the-week-aging-economies-may-benefit-less-from-fiscal-stimulus)

[2] IMF Global Debt Database(2018年のデータ)

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