デジタル化の推進はマイノリティーの不利を解消する契機に

関東の私鉄各社などが参加しているPASMO協議会は、10月6日よりICカード乗車券PASMOがApple Payに対応したことを発表した。私も通勤中、渋谷駅の改札を通り過ぎたとき、Apple Payでの対応が開始されたことを示唆するシール(PASMOとApple Payのロゴが書いてあった)が、改札機のICカードのタッチ部分に貼ってあることに気付いた。さっそく、帰宅後にPASMO定期券をApple Payに登録し、Apple WatchでPASMOを使えるよう設定した。


しかし、Apple Watchを改札で実際に使ってみたところ、とても使いづらい。改札のICカードのタッチ部分が右側に設置されているからだ。私は右利きなので、Apple Watchは左手に装着しているが、改札を通る際にわざわざ左手を右側に交差させなくてはならず、スムーズに通過できない。そのため、Apple Watchを右手に装着しようかとも考えたが、実際に右手に着けてみると何とも違和感がある。何年も左手に時計をつけているので、「時計は左手につけるもの」という認識が、体に染み付いてしまっているのだ。また、Apple Watchのディスプレイ上でタッチする操作(ロック解除のための暗証番号の入力など)もあるため、左手に装着しないと使いづらい。改札を通過するたび左手を交差させることが億劫なので、結局改札の通過においては、iPhoneでタッチするように変更することを検討している。(慣れてしまえばこの違和感は消えるのかもしれないが・・・)。

 
こうしてみると、世の中にある様々な設計の多くが右利きを前提に作られていることをより実感できる。自動改札機はもとより、飲料などの自動販売機も硬貨や紙幣の投入口は右側に作られている。また、日本語や英語などでも基本的に左から右に書いていくように文字が作られているので、多くの左利きの人は幼少期に右で文字を書くように矯正していると訊く。野球も左右非対称なスポーツで、走者が反時計回りに塁を回っていくので、内野(一塁、投手を除く)において左投げは不利とされている。世の中のあらゆる物事が、割合の多い右利きの人にメリットをより享受できるよう設計されているのである。


PASMOに先行して既に使われているモバイルSuicaを含め、モバイルデバイスを使った改札の通過が今後より浸透していくだろう。仮に左右両側にICカードのタッチ部分が設置されれば、Apple Watchなどのスマートウォッチによる通過が楽になるだけでなく、左利きの人にも使いやすくなるのではないだろうか。当然、新しく設備を投資することは鉄道各社の負担になってしまうが、今後自動改札機などの設備を更新する際には、より多くの人が利便性を感じることができる改札を設置してほしいと思う。社会全体でのデジタル化の推進は、左利きといったマイノリティーの不利を解消する契機にすべきであろう。

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