国の借金が過去最高に?復興に欠かせない財政政策のあるべき姿
このように世界各国の財政余地が限られているなかではあるものの、新型コロナの収束が見通せない現状では財政出動を避けては通れない。実際にIMFの「世界経済見通し(2020年10月)」[2]では、2020年の世界経済成長率はマイナス4.4%と、6月時点(マイナス5.2%)から上方修正されたが、その要因のひとつは、過去に例をみない各国政府による財政面の大規模かつ迅速な対応であることが述べられている。
このような状況下、GDPに対する債務残高の比率が世界最高水準である日本は危機的状況に陥るようにみえる。しかし、財政状況を把握するには政府債務のみでなく、中央銀行や年金機構等も含めた公的部門の「債務」と「資産」を確認することも重要だと考えられる。実際にIMFの「財政モニター(2018年10月)」[3]によると、日本の公的部門の資産から債務を差し引いた額はゼロに近い。ほかにも、国際機関が各国の財政力を測る際に重視する「対外債務の割合」や「GDPに対する債務の利払い費」も低位で安定している。このように、多方面から現在の日本の財政状況をみると、すぐに財政危機が発生する可能性は低いのではないかと考えられる。とはいいつつも新型コロナが収束した後も民間の消費や投資を促すために、さらなる財政出動は必要となってくる。従って、公的債務の管理を慎重に行うことは今まで以上に重要性が増すと考えられる。
既述の「財政モニター(2020年10月)」によると、IMFが行った世界各国のデータに基づく経験的推定では、今般の危機において「公共投資」がGDP成長と雇用に多大な影響を及ぼしうることが明らかになった。特に先進国や新興国は低金利が活用でき、公共投資を対GDP比1%拡大することによって、直接的と間接的な経済効果を考慮すると全体で2,000万から3,300万件の雇用が創出されると推定されている。また、政府による建設業や通信業への投資は民間投資誘発において特に効果が大きくなることも示された。他方、以前当コラム(「日本では財政政策の効果が低い?人材の確保がカギを握る」)で取り上げたように、特に高齢化が進んだ日本においては「労働供給の増加を狙った構造政策」も必要だと考えられる。
財政の健全性を保ちながら経済を復興するために政府はこうした分析を参考にし、あるいは自ら研究を行い、費用対効果の高い財政政策を講じることが求められよう。
[1] IMF「財政モニター 2020年10月」