社歌ブームと景気
第4次社歌ブームと言われて久しい。これまで社歌がブームとなったのは、景気が極端に良い時か、極端に悪い時であった。第1次社歌ブームは、1920年代後半から30年代、世界大恐慌のなかで社員一丸となって乗り切ろうと制作された。第2次ブームは、1960年代の高度経済成長期である。業績や給与が右肩上がりとなり、明日への希望に満ちていた時代に表れた。第3次ブームは、1980年代のバブル期で、コーポレートアイデンティティ(CI)やブランディングなどの言葉とともに、社名や社歌を変更する企業が多くみられていた(弓狩匡純著『社歌』2006年)。
第3次ブーム以降、バブル崩壊後には朝礼で社歌を斉唱するという光景は見られなくなった。とはいえ、2000年代前半に神奈川県の建築解体業者が制作した社歌のCDがヒットするなど、社歌が完全に廃れていたわけではなかったことも事実であろう。
そして現在の第4次社歌ブームである。楽曲は、主に若い社員が主体となり、Hip-HopからJ-POP、ROCK、演歌などオールジャンルの状況となっている。また、動画投稿サイトを通じて企業理念や社風を発信していることも特徴である。その作り方は企業PVやショートムービー、ミュージックビデオ、ドキュメンタリー映像など、多種多様といっても過言ではない。このような情報発信は2008年に社名を変更し、作詞に森雪之丞氏、作曲に久石譲氏を起用して社歌を改定したパナソニックが先駆けだと言われる。さらに、2019年に開催されたさまざまな社歌動画コンテストも盛況だという。
今回のブームは、社員が自社の魅力や風土、会社で働き続けることの意義などを真剣に考えて作詞するなど、これまでにない動きとなっている。複数の部署から参加し侃々諤々に意見を出し合うことで、日常の業務では味わえないシナジーも得られよう。あるいは若手社員には社歌が新鮮に感じられたのかもしれない。新型コロナウイルスの影響が続くなか、社員がそろって社歌を歌うことは難しい。また、新しい生活様式に自社がどのように対応していくか、模索している企業も多い。このような時代だからこそ、社歌の持つ可能性が改めて注目されているのではないだろうか。
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