交通事故による死者数を限りなくゼロに近づけるためには

2021年1月4日、警察庁は2020年中の交通事故による死者数を2,839人と発表した。前年比で379人、11.7%減少し、4年連続で戦後最少を更新、初めて2,000人台となった。過去最多であった1970年(16,765人)と比較すると5分の1以下に減少しており、警察や学校などをはじめとする交通安全の啓蒙活動や車両安全装備の充実といった自動車メーカーの取り組み、医療の進歩に起因するところは大きいと言える。


とりわけ、シートベルト着用の義務化の影響は大きく、非着用時の致死率は着用時の15.6倍となるなど、交通事故に遭った場合の被害を大幅に軽減している。


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他方で、2020年は新型コロナウイルスの影響にともなう、外出の自粛などで交通量が大きく減少したことも一因として考えられる。月別の死者数をみると、2月を除く11カ月で前年同月より減少し、緊急事態宣言が発出されていた4月は約2割減、例年よりお盆期間の外出行動の減少が際立った8月は約3割減となっていた。


しかし、新たな問題も浮き彫りとなっている。一部の自治体では、自動車の交通量が減少したことで、自動車のスピードを出しやすい環境のためか速度超過による検挙件数が増加しているほか、交通量が減少しているにも関わらず路上駐車などの駐車違反の件数は横ばいとなっている。


新型コロナウイルスの影響で、尊い命が守られたのかもしれないが、多くの命が失われていることに変わりはなく、自動車の運転者だけでなく、各人それぞれが交通ルールを遵守して行動することが必要であろう。


警察庁が本統計を発表した同日に、東京都で高齢男性が運転するタクシーに小学生を含む男女6人がはねられ、1人が亡くなるという痛ましい事故が発生した。近年、65歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故の発生は、死亡事故全体の約3割を占めており、健康状態や認知能力などを鑑みた免許制度の構築も求められている。


2020年は、戦後初めて交通事故による死者数が2,000人台となったが、まだまだ尊い命が失われている。交通事故による死者数を限りなくゼロに近づけるという究極的な目標に対しては、国民一人一人の意識や自動車メーカーの不断の努力、行政の交通安全に資する取り組み、さらには政府による制度の改正など四位一体の協力が必要不可欠であると思う。

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