「脱炭素ウォッシュ」にご用心、官民にある温度差のワケとは

2020年9月に菅首相が就任して以降、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」といった、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという宣言に基づいた動きが急に活発になった。2020年12月にはグリーン成長戦略を打ち出し、より一層大々的に目標を掲げている。


しかし、企業の反応は芳しくない実態があった。帝国データバンクの調査[1]では、上記の2050年目標に対して達成可能と考えている企業は15.8%にとどまり、「達成は困難」「達成できない」と慎重に考えている企業は6割超にのぼった。集まった企業の声をみると、「言うは易く行うは難しで、具体的な計画と目標が分からない」(し尿収集運搬、石川県)など、目標に懐疑的な意見が多く寄せられている。


こうした動向は、「脱炭素ウォッシュ」ともいえる。この「○○ウォッシュ」とは、一見良いことを打ち出しているのに実はマイナスを生み出していたり批判されたりしてしまうことを指す。いわゆる「合成の誤謬」とも近い表現だ。日本は、過去に国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)において、地球温暖化対策に消極的な国に贈られる「化石賞」を2度も受賞しており、世界各国からは少々冷ややかな目で見られているということも2050年目標を早急に推し進める要因になったとみられる。しかし、それにしても政府の号令に企業側が置いていかれてしまい、温度差が生じてしまった。政府にとっては、企業に対してロードマップなどを通して道筋や取り組むメリットを示していくことが「はじめの一歩」となるだろう。


この「脱炭素ウォッシュ」は、企業においてもご用心だ。前述の調査[2]で、温室効果ガス排出抑制に対する取り組み課題について尋ねたところ、低水準ではあるものの「売上高の減少」や「ステークホルダーから理解が得られない」のような、むしろマイナスを生み出してしまうといった項目もあげられている。もちろん脱炭素を達成するには企業の取り組みは欠かせず、時には積極的な設備投資などリスクテイクも求められる。しかし、脱炭素への取り組みでもともとある魅力などを失ってしまっては、本末転倒になってしまう。


私としては、「2050年カーボンニュートラル」目標は将来的に必要不可欠であるものの、少々見切り発車だったように感じる。現在地と理想がわかっても、そのギャップを埋める方法がまだまだ浸透していない。急がば回れと言われるように、官民ともにこの課題を長期的に解決するには「一歩一歩、着実に」が共通認識として必要ではないだろうか。



[1] 帝国データバンク「温室効果ガス排出抑制に対する企業の意識調査」2021年1月19日発表
[2] 同上

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