たとえ夢や目標がなくてもいい、『天命追求型』の生き方

「夢を持とう」「目標を決めて頑張ろう」などという言葉は、もう既に耳馴染みだろうか。たしかに、それぞれは大事。夢という大きな理想を掲げて、それに対して細かく目標設定をすれば達成の可能性は高まる。例えば、数年後までに何かを達成したいと思うと遠く感じるが、毎月のマイルストーンなどを設定しクリアできれば徐々に達成に近づく、といった具合だ。


実際に、目標設定の大切さを示した有名な実験がある。ハーバード大学の学生を対象とした実験で、学生たちに目標を持っているか尋ねたところ、84%は目標がなく、13%は目標があり、さらに3%は目標に加えて、それを紙に書いていた。それから10年後、目標を持っていた13%の平均年収は、目標を持っていなかった84%の人より約2倍になっていた。さらに、目標を紙に書いていた3%の平均年収は、残りの97%の約10倍にもなっていたのである。


年収だけが幸福や満足を図る尺度ではないが、こう聞くと目標設定の大切さがわかるだろう。しかし、なかには目標がなかなか見つからないという人もいる。そのような人はどうすればいいのだろうか?そこで、ここまでの『目標達成型』と対比した、『天命追求型』という考え方をご紹介したい。


これは、各地で歴史について講演活動を行っている「博多の歴女」こと白駒妃登美さんが提唱している考え方である。具体例はこうだ。天下統一で有名な豊臣秀吉は、元々は土地すら持たない貧しい農民の出身。そんな秀吉が18歳の頃、まずは織田信長の「雑用係」として奉公できるチャンスが訪れた。そこで、秀吉は草履を懐で温めてから信長に差し出すなど、さまざまな工夫や努力を重ねた。そうした頑張りが認められた秀吉は足軽に出世し、その後もステップアップを重ね雑用係から19年後、ついに大名まで上り詰め、やがて天下統一を成し遂げる。


ここで重要なことは、豊臣秀吉が最初から天下統一を夢見ていたわけではないはずだということ。天下統一への一歩として草履を懐で温めたわけではなく、きっと信長に喜んでほしい純な心で温めていたのではないだろうか。つまり、その場その場で目の前に全力を注ぐ、与えられた天命を追求することで、思いがけない大きな結果を呼び込むことができるということだ。


もちろん、夢や目標が大切であることに間違いはなく、大変素晴らしいことである。しかし、もし夢や目標がなくても「今に全力」という原則さえあれば道は拓けるはずだ。年度替わりの春がもうすぐそこに来ており、環境の変化などでさまざまな「天命」に出会う方も多いかと思うが、その多くがそれぞれの持ち場で輝くことを願ってやまない。

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