SDGsと金融機関の融資姿勢

SDGsに取り組む企業、金融機関の融資姿勢が積極的な傾向
~ 複数のSDGsに取り組む企業は融資姿勢がより積極的に ~

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連で採択されてから6年が経過した。2030年のSDGs達成に向け、国連は2020年1月からの10年を「行動の10年(Decade of Action)」としている。また、金融機関においては財務情報だけでなく、ESG(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governance)といった非財務情報を投資の判断に取り入れる動きも足元で強まっている。


  1. SDGsに取り組む企業では、金融機関の融資姿勢が積極的な傾向に

  2. 帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」では、その設問と併せ同じアンケートで「TDB景気動向調査(2021年6月)」も実施している。TDB景気動向調査の設問項目の一つでは、現在の金融機関の融資姿勢が「積極的」か「消極的」かについて企業に尋ねている。そこで、企業のSDGsへの取り組み状況によって、金融機関の融資姿勢に差がみられるか確認した(図表1)。


    【図表1 SDGsへの取組状況と金融機関の融資姿勢】
    r202107270101.png

    SDGsに対し「(1)意味および重要性を理解し、取り組んでいる」企業では、30.3%の企業で金融機関の融資姿勢が「積極的」となった。また、「(2)意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」企業においても、29.7%が「積極的」だった。(1)、(2)を合わせて『SDGsに積極的』な企業の29.9%とほぼ3割近い企業で金融機関の融資姿勢が「積極的」な傾向となり、金融機関の融資姿勢DIは57.1となった。


    一方、「(3)言葉は知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」企業では、金融機関の融資姿勢が「積極的」な割合は25.1%となった。また、「(4)言葉は知っているが意味もしくは重要性を理解できない」は24.5%、「(5)言葉も知らない」は19.5%、「(6)分からない」は15.1%となり、各項目で『SDGsへ積極的』な企業の「積極的」な割合を下回った。(3)、(4)、(5)を合わせて『SDGsへ取り組んでいない』企業では、「積極的」な割合は24.7%、金融機関の融資姿勢DIは54.4となり、『SDGsへ積極的』な企業と比べ2.7ポイント低かった。


    『SDGsに積極的』と『SDGsへ取り組んでいない』の各グループで金融機関の融資姿勢が「積極的」な差について、独立性の検定を実施したところP値は0.00となり、グループ間で統計的に有意な差があった。

  3. SDGsに複数取り組む企業では、金融機関の融資姿勢がより積極的に

  4. 図表2ではSDGsの17のゴール別で金融機関の融資姿勢DIに差があるかを確認した。各目標に取り組んでいると回答していない企業グループの水準(53.4)が低い一方、17のゴールへ取り組む企業グループでは各ゴール全てで56を上回った。特に、持続可能で強靭なインフラの開発などを目指す「産業と技術革新の基盤をつくろう」や、開発途上国への支援などの「パートナーシップで目標を達成しよう」が高い水準となった。


    【図表2 金融機関の融資姿勢DI(SDGs17のゴール別)】
    r2021072702_v2.png

    また、図表3では複数のゴールに取り組む企業グループで金融機関の融資姿勢DIに差があるか確認した。1項目もSDGsに取り組んでいない企業グループ(53.4)に対して、1項目だけ取り組む企業グループは54.6となり、1.2ポイント上回った。さらに、2項目(56.2)、3項目(56.7)と取り組み数が増加すると金融機関の融資姿勢DIも高まる傾向もみられ、10項目以上のゴールに取り組む企業グループでは58.0となった。


    【図表3 金融機関の融資姿勢DI(SDGsの17のゴール、取り組み数別)】
    r202107270103.png

  5. まとめ

  6. 本レポートでは、企業のSDGsの取り組み状況と金融機関の融資姿勢の関係性を確認した。SDGsへ積極的に取り組む企業においては、その企業への金融機関の融資姿勢が積極的な傾向にあった。また、17項目あるSDGsのゴールについて、より多くのゴールへ取り組む企業では、金融機関の融資姿勢も高まる傾向がみられた。


    帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2021年)」によれば、SDGsへ積極的な企業は39.7%と2020年7月に実施した同調査(24.4%)より15.3ポイント増加している。しかし、SDGsに取り組んでいない企業も50.5%と半数を上回っており、企業規模別では大企業の55.1%と半数以上でSDGsに積極的である一方で、中小企業においては36.6%と大企業を18.5ポイントも下回っている(図表4)。


    【図表4 SDGsに積極的な企業の割合 ~規模別~】
    r202107270104.png

    同調査では、企業から「世界的企業においてSDGsへの取り組みの有無で、投資対象企業であるかを判別される環境が広まっている。今後、日本の企業においてどの程度の会社規模の企業が取り組んでいくか注視したい」(一般土木建築工事)、「SDGsに注力する企業が社会的に評価され投資が加速される。そういった企業を積極的に活用しようという風土が高まっているのであれば企業はSDGsに取り組む」(ソフト受託開発)といった意見も聞かれた。


    日本銀行は、2021年7月16日の金融政策決定会合において、大規模な金融緩和策の維持を決めた一方、金融機関の気候変動対応の投融資を促す新制度の骨子素案(日本銀行、2021年7月16日「当面の金融政策運営について」)も発表した。金融機関が実施する日本の気候変動対応への投融資について、貸付利率0%で長期にわたる資金供給を行うとしている。そうしたなか今後も金融機関においては、投融資の判断材料として企業の財務情報だけでなく、非財務情報であるESG・SDGsへの取り組みを重視する流れが加速するとみられる。


    大企業を中心にSDGsの取り組みが進むなか、その流れが中小企業へどのように浸透していくかが今後の大きな注目点となろう。


このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。