『製造』の在庫循環は「在庫積み増し局面入り」

2021年7月のTDB景気動向調査の景気DIは40.7で前月比1.6ポイント増と2カ月連続の改善、2020年1月(41.9)以来1年6カ月ぶりに40を上回った。なかでも『製造』(42.7、前月比2.1ポイント増)の寄与が大きく、『製造』は全12業種が2カ月連続で改善した。とくに、「輸送用機械・器具製造」(50.6、同3.5ポイント増)が2019年2月(50.9)以来2年5カ月ぶりに50を超え、全12業種が前年同月を大きく上回った。「出版・印刷」(27.4、同0.3ポイント増)や「繊維・繊維製品・服飾品製造」(31.0、同1.7ポイント増)など、依然として厳しい水準の業種もあるものの、『製造』は新型コロナウイルスの感染が広まる前の2020年1月と比べ12業種中9業種がその水準を上回り、他の業界・業種と比べても改善幅が大きい。


【表:『製造』の景気DI(2021年7月)】

col2021081201_p01.jpg


『製造』の回復が進んでいる要因としては、やはり海外経済の回復に依るところが大きい。米国、中国などで経済が回復傾向にあるなか、自動車や鉄鋼などの輸出が大きく伸びている。財務省「貿易統計」によると、2021年6月の輸出金額は7兆2,200億円で前年同月比48.6%増、4カ月連続での増加となった。2020年の大幅な落ち込みからの反動増はあるものの、輸出金額は2年前の2019年6月(6兆5,851億円)を上回った。商品別に輸出金額の伸び率をみると、自動車(前年同月比102.8%増)、自動車の部分品(同114.8%増)、鉄鋼(同73.0%増)などが大幅に伸びている。また、半導体等製造装置(同32.7%増)や半導体等電子部品(同24.7%増)など半導体関連も堅調に推移している。


こうしたなか、『製造』の在庫循環の状況を確認するため、横軸に生産・出荷量DI、縦軸に在庫DIをとった在庫循環図を作成した(生産・出荷量DI、在庫DIはともに前年同月と比べた増減を表す指標)。在庫循環は、「在庫積み増し」→「意図せざる在庫増」→「在庫調整」→「意図せざる在庫減」と反時計回りに循環する。『製造』の在庫循環は、2021年4月に「意図せざる在庫減」局面となり、6月には「在庫積み増し」局面に入った。


【図:『製造』の在庫循環図(2018年4月から2021年7月)】

col2021081201_p02.jpg


在庫循環は、米国の経済学者ジョセフ・キチンによって明らかにされたことで「キチンの波(Kitchin Cycle)」とも呼ばれる[1]。その循環はおおよそ40カ月周期とされており、この図でも2018年4月から39カ月後となる2021年7月に同じ「在庫積み増し局面」に戻っている。


ただし今後について、いつまで「在庫積み増し局面」が続くかは不透明である。新型コロナウイルスの影響で生産・出荷量が大きく落ち込んだ2020年からの反動増もあるなか、足元では木材や金属などの材料価格の高騰、半導体不足による自動車工場の減産などの影響もみられる。在庫変動の波がおおよそ40カ月周期ということからも、「在庫積み増し」局面から「意図せざる在庫増」「在庫調整」局面へ移るスピードが、思いのほか早い可能性も懸念される。


[1] Kitchin J. 1923. Cycles and Trends in Economic Factors. The Review of Economic Statistics 5: 10-16
このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。