差し迫る物流「2024年問題」、他業界や消費者の認知度向上も必要に
物流業界において、「2024年問題」への対応が切迫しています。
働き方改革関連法が施行し、時間外労働の上限規制が2019年度から大企業で適用され、時間外労働の上限は原則1月45時間、1年360時間以内となりました。また、2020年度からは中小企業にもこの上限規制が適用されています。しかし、貨物自動車運送業のトラックドライバーや建設業、医師など一部の職種において、この時間外労働の上限規制は適用されておらず、2024年4月1日から適用される予定です。
この時間外労働の上限規制が適用されると、トラックドライバーは時間外労働の上限が1年960時間となり、多くの企業で長距離運送のドライバー確保が難しくなることが予想されます。企業からも「2024年問題が近くなってくるたびに、状況が悪くなっていく気がする」、「燃料の高騰と2024年問題が重なり、経営に大きくのしかかる」など、厳しい声が聞かれます。
そうしたなか、貨物自動車運送の正社員の人手不足割合は2022年7月時点で63.6%となり、全企業の47.7%を大きく上回っています。もともと運送業では慢性的に人手不足が叫ばれる一方、さらに足元では「ドライバー不足に加えて、新型コロナウイルスのまん延で、陽性者が続出して仕事にならない」など、新型コロナウイルスの影響もみられます。
差し迫る2024年問題に対し、政府は9月2日に「持続可能な物流の実現に向けた検討会」[1]を開催。検討会では、2024年問題に対して「消費者や荷主企業への理解が不十分」であることや、「着荷主の協力の重要性」が課題にあがりました。
検討会で用いられた資料によると、「パレット化による作業負荷の削減や、荷積み・荷卸しに係る荷待ち時間の削減、共同輸配送などの効率的な輸送の実現には、物流機能と調達・生産・販売・回収などの分野を総合的に考えるロジスティクスの視点から、荷主の積極的な取組が重要となる。」など、物流業だけでなく荷主企業側においても取り組みが重要であると指摘しています。
また、Eコマース市場が拡大を続ける一方、宅配便の再配達率は依然として1割を上回る水準にあり、再配達の削減に向け消費者側の認識を高める施策も、今後さらに必要となっています。そうした物流に関する認識に対して、経済産業省は一般消費者および事業者(物流事業者および荷主企業)に向けて、アンケート調査を9月末から実施する予定です。
2024年問題が近づきつつある貨物自動車運送業において、生産性を高める取り組みの重要性が増大しています。しかし、物流業界の生産性を高めるためには、製造・卸売・小売などサプライチェーン全体での視点が不可欠です。
そうしたなか、政府は、「SIPスマート物流サービス」[2]として、「モノの動き(物流)」と「商品情報(商流)」を見える化し、個社・業界の垣根を越えデータの蓄積・解析・共有する「物流・商流データ基盤」を構築。トラック積載率の向上や無駄な配送の削減などを実現し、生産性の向上に貢献するとしています。
今後、社会全体でDXが進みさまざまなデータが標準化・連携されることで、物流業界だけでなくサプライチェーン全体で既存の業務が大きく変革することが見込まれます。自社が属する業界だけでなく他業界を含めた動向も、これまで以上に注視していく必要があるでしょう。
[1] 経済産業省「第1回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/001.html
[2] 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP : Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)