企業物価指数が過去最高も価格転嫁進まず、克服には「賃金上昇」がカギ


原材料価格の高止まりや円安による輸入物価の上昇などを背景に、企業の仕入れコストは引き続き上昇傾向にあります。企業の間で取り引きされるモノの価格を示す「企業物価指数」(2022年8月)は、18カ月連続で前の年の同じ月を上回り、7月に続き過去最高を更新しました。同指数の1年前からの上昇率は前月から横ばいの9.0%であり、依然として大きな上昇幅となっています。


他方、8月の消費者向けのモノとサービスの値動きを示す消費者物価指数(生鮮食品除く)の1年前からの上昇率は2.8%となり、消費税率引き上げの影響を除くと 30年11カ月ぶりの水準となりました。しかしながら、企業物価と消費者物価の伸び率を比較すると、企業物価の伸び率は消費者物価のそれを大きく上回っていることが分かります。つまり、企業において仕入れ価格が上昇しているにもかかわらず、商品価格やサービス料金への転嫁は進んでいないことが示されています。

企業物価指数と消費者物価指数の推移

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実際、帝国データバンクが2022年9月に実施したアンケート[1]によると、価格転嫁をしたいと考えている企業で、コストの上昇分に対する販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は36.6%と4割未満にとどまりました。これはコストが100円上昇した場合に36.6円しか販売価格に反映できていないことを示しています。


なかでも、2割近くの企業で『全く価格転嫁できていない』と答えています。その背景として、取引先の理解を得られないことや顧客離れへの懸念などがあげられます。働き手の購買力をあらわす「実質賃金」が低迷しているなか、企業からは「一般大衆の所得が目減りするなかでの値上げは集客に悪い影響を与える」(旅館)といった声が聞かれました。また、「業界内には積極的な値上げ交渉をすることによる荷主離れを懸念して値上げが進んでいない」(一般貨物自動車運送)といった声もあり、BtoC企業のみならずBtoB企業においても、顧客離れへの懸念が値上げに踏み切れない一つの要因となっているようです。


こうしたなか、消費者が値上げを許容できるように、働く人全体の"賃上げ"の必要性が増しています。他方、企業は値上げしても顧客が離れていかないように、商品やサービスの付加価値を上げ、価格以外の価値を提供することも重要です。


政府には物価高騰対策や企業間の価格転嫁を促す対策のみならず、企業が賃上げしやすい環境を整備するための生産性向上に関する支援策のほか、商品の付加価値の向上および業績改善につながる研究開発への支援策など、多方面にわたる対策の強化が求められます。



[1] 帝国データバンク「企業の価格転嫁の動向アンケート(2022年9月)」(2022年9月15日発表)

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