「異次元の金融緩和」10年、7つの指標でみる日本経済の変化

デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行(以下、日銀)の政策連携-共同声明(アコード)が公表されてから、2023年には10年目を迎えました。


この共同声明では、2%の物価目標が導入され、その目標をできるだけ早期に実現するために2013年4月より、その年に日銀総裁として就任した黒田東彦現総裁の体制下で"異次元の金融緩和政策"がスタートしました。


さて、異次元の金融緩和政策が行われたこの10年、日本経済はどのように変わったのでしょうか? 主な経済指標の変化をみていきます。


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【為替相場】 ドル円相場:1ドル=97.71円 → 1ドル=132.69円
政策導入時の1ドル=97.71円から現在は1ドル=132.69円まで円安が進行しています。円高が是正され、輸出採算向上を通じた企業収益の改善がみられた一方、昨年の急速な円安の進行は物価高騰に拍車をかけ、企業や家計に悪影響を及ぼしました。


【株価】 日経平均株価:13,224円 → 27,509円
現在の株価は政策導入時の約2倍となりました。上述の企業収益の改善や日銀によるETFの積極的な買い入れのほか、世界的な株高などがプラスに寄与したとみられます。


【企業景況感】 TDB景気DI:42.4 → 42.1(コロナ前:46.8)
政策を導入してから5年後における企業の景況感は大幅に改善し、新型コロナ前の2019年4月の景気DIは46.8と導入前を4.4ポイント上回りました。しかし、新型コロナや昨今の物価高などの影響で42.1まで落ち込むこととなりました。


【企業収益性】 売上高経常利益率:1.98% → 2.79%
2021年度における、企業の収益性を示す指標の一つ「売上高経常利益率[1]」は2.79%となり、政策を導入した2013年度(1.98%)に比べて0.81ポイント高くなりました。


【倒産】 企業倒産件数:10,332件 → 6,376件
2022年の倒産件数は政策導入年から4割近く減少しました。政府による手厚い金融支援もプラスに寄与し、新型コロナ禍でも倒産件数は減少傾向が続きました。


【賃金】 実質賃金指数:106.2 → 97.7
物価を考慮した賃金の実態を表す指数「実質賃金指数」は、直近で97.7となり、政策導入時の106.2に比べて8.5ポイント低下しました。日銀が目指している賃金の上昇をともなう形での「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現への道のりはまだまだ長いとみられます。


【消費者マインド】 消費者態度指数:44.4 → 30.7
2023年2月の消費者態度指数は30.7と、政策導入時の44.4から13.7ポイント低下しました。実質賃金が低下しているなか、ここ10年の間に行われた2度の消費税率引き上げの影響も相まって、消費者のマインドが悪化し続けています。


帝国データバンクが実施した調査[2]によると、黒田総裁のもとで約10年行われた金融政策への評価は、平均65.8点となりました。政策スタート時は、上述の指標でもみられるように円高が是正されたほか、低金利による資金調達のしやすさや利息負担軽減といった効果を相応に評価する声が多く聞かれました。


しかし、他国が金融引き締めをし始めたなか、日銀は政策の方向性を転換しないことなどによる副作用を指摘し、柔軟性を求める声も多数あがっていました。


そんな黒田総裁は2023年4月8日に任期を終え、次期総裁の体制下の政策が注目されています。


こうしたなか、3月10日に黒田総裁の後任として植田和男氏を起用する政府の人事案が国会で同意されました。植田氏は、衆参両院の所信聴取で大規模な金融緩和を継続するという考えを示した一方、今までの政策によりさまざまな副作用が生じていることにも言及しています。


果たして日銀はその副作用を最小限にしつつ、賃金上昇をともなう物価の安定の実現に向けて、柔軟に金融政策を運営できるか、またいつ、いかに金融政策の「正常化」を図れるか注目度が高まっています。



[1] 全産業平均、帝国データバンク「全国企業財務諸表分析統計」より

[2]帝国データバンク「金融政策10年の評価と今後に関する企業アンケート」(2023年2月16日発表)










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