2023年の「夏のボーナス」動向分析
2023年「夏ボーナス」、企業の約4割が前年比増
背景に業績改善のほか「人手不足」も
背景に業績改善のほか「人手不足」も
【要約】
- 2023年の夏季賞与の支給状況について、「賞与はあり、増加する」企業の割合は37.4%となった。夏季賞与の1人当たり支給額は前年から平均で2.4%増加した。
- 各業種の「2023年夏季賞与の増減率の平均」と経営指標の関係を分析した結果、増益企業の割合が高い業種、また、人手不足割合が高い業種ほど夏季賞与の増加率(平均)も高い傾向にあることが明らかになった。
- 重回帰分析を用いて各企業の「2023年夏季賞与の増減率」と経営指標の関係を分析した結果、特に前年が増益である企業、前年と比べて売り上げがより増加している企業、人手不足がより深刻である企業ほど、夏季賞与の増加率が高い傾向にあることが分かった。
2023年6月の消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)が前年同月比で3.3%上昇した。伸び率は5月から0.1ポイント上がり、前年同月比プラスは22カ月連続となった。また、電気料金や水道料金などのライフラインの値上げも相次いでいる。家計負担が増加するなか、夏休み・レジャーシーズンで期待されている需要の伸び悩みが懸念されている。
こうした状況下、物価高への対策のほか、働く人全体の実質賃金の上昇も最重要課題となっている。本レポートでは2023年の夏季賞与の動向について分析を行った。
- 夏のボーナス、企業の37.4%で1人当たり平均支給額が前年より「増加」
帝国データバンクが実施した「2023年夏季賞与の動向アンケート[1]」では、2023年の夏季賞与の支給状況について、「賞与はあり、増加する」企業の割合は37.4%となった(図表1)。「賞与はあり、変わらない」は36.4%、「賞与はあるが、減少する」は9.3%で、合計すると、『賞与あり』の企業は83.1%だった。調査方法や支給時期が異なるため単純な比較はできないが、賞与が増加する企業の割合は、2022年冬季賞与[2](21.2%)に比べると大幅に上昇していることが分かった。
また、夏季賞与の1人当たり支給額は前年から平均で2.4%増加した(図表2)。業界別では『不動産』が7.6%で最も高く、サービス(5.7%)、金融(3.0%)で続いた。
増加率がトップの『不動産』からは、「社員の頑張りで増収増益になったため、賞与を増額する予定(不動産代理業・仲介、東京都)といった声が聞かれた。
一方で、前年からマイナスとなった『製造』からは「製造業の中小零細企業は仕入価格、電気料金の高騰などを価格転嫁できず業績が悪化しているため賞与は減額となった」(自動車操縦装置製造、長野県)など、厳しい声が複数あがっていた。
【図表2 2023年夏季賞与の増減率の平均 ~業界別~】 - 「利益の増加」のほか「人手不足」なども夏季賞与の増加背景に
同アンケートで寄せられた企業の声をみると、「社員の頑張りにより、昨年度より粗利益額が増加したため賞与を増やす予定」(土地売買、埼玉県)といった声にあるように、業績の回復をあげた企業が多数みられた。
他方、「人材流出を防ぎたい」(ソフト受託開発、山梨県)のように、人手不足感が高まるなか従業員のモチベーション維持のほか、物価高騰による従業員の経済的負担の軽減を理由にあげる企業も少なくなかった。
そこで、「2023年夏季賞与の増減率の平均」と帝国データバンクが実施した「2023年度の業績見通しに関する企業の意識調査 [3]」結果から算出した「増益企業割合」および「TDB景気動向調査 2023年5月調査[4] 」の結果から算出した「人手過不足感」[5]やその他の経営指標の関係を確認した。
【業種データ】
「2023年夏季賞与の増減率の平均」と「2022年度増益企業割合」の関係を主な業種別にみると、2022年度増益企業割合が1ポイント上昇すると「2023年夏季賞与の増減率の平均」が0.6ポイント上昇するという傾向が表れていた[6](図表3)。
また、「2023年度増益見込み企業割合」が1ポイント上昇すると、「2023年夏季賞与の増減率の平均」が0.4ポイント上昇する傾向にあることも確認できた[7] 。
他方、直近の人手不足の状況についてみると、「人手不足企業割合(正社員)」が1ポイント上昇すると、「2023年夏季賞与の増減率の平均」が0.2ポイント上昇するという傾向が表れていた[8] (図表4)。
【図表3 2023年夏季賞与の増減率の平均と2022年度増益企業割合の関係 ~業種別~】 - まとめ
本分析の結果、増益企業の割合が高い業種、また、人手不足割合が高い業種ほど夏季賞与の増加率(平均)も高い傾向にあることが明らかになった。また、個票データでみると特に前年が増益である企業、前年と比べて売り上げがより増加している企業、人手不足がより深刻である企業ほど、夏季賞与の増加率が高い傾向にあることも分かった。
従来の賞与の増加の主な原因としては業績の向上があげられるが、近年は人手不足感が高まるなか従業員のモチベーションを維持し、人材定着を図ることを目的に賞与を増やす企業が少なくない。また、昨今の物価高騰による従業員の経済的負担の低減が背景となっている事例も増えているなど、業績は改善していないものの、人材確保などのために「防衛的賃上げ」を行った企業が多くなっている。業績改善を背景としない「防衛的賃上げ」で、コスト負担だけが増加し、特に中小企業においてはこの先の経営環境に影響を及ぼす可能性も高いことから、今後持続的な賃上げの動きが維持されないことが懸念される。
「持続的な賃上げ」の実現に向けて、価格転嫁の促進や生産性向上など企業が賃上げしやすい環境を整備するための支援策のほか、労働市場の改革など国全体の課題として官民が連携し、多方面にわたる対策を講じていくことが大切である。
【個票データ】
各企業からの「2023年夏季賞与」、「2022年度業績」、「2023年度業績見込み」、「人手過不足感」に関する回答に加え、「TDB景気動向調査 2023年5月調査」から「景況感」「売り上げの変動」「設備稼働率の変動」を用いて2023年夏季賞与の前年からの変化と業績および人手不足状況の関係を確認した。対象企業数は572社であった。
「2023年夏季賞与の増減率[9] 」を被説明変数とし以下を説明変数とする重回帰分析を行った。
1)「2022年度増益ダミー変数」:増益1、その他0
2)「2023年度増益見込みダミー変数」:増益1、その他0
3)「正社員の人手過不足感」:非常に過剰0、過剰1、やや過剰2、適正3、
やや不足4、不足5、非常に不足6
4)「景況感」:非常に悪い0、悪い1、やや悪い2、どちらともいえない3、
やや良い4、良い5 、非常に良い6
5)「前年同月比の売り上げの変動」:非常に減少0、減少1、やや減少2、変わらない3、
やや増加4、増加5、非常に増加6
6)「前年同月比の設備稼働率の変動」:非常に低下0、低下1、やや低下2、変わらない3、
やや上昇4、上昇5、非常に上昇6
分析では、ステップワイズ変数増減法により赤池情報量規準(AIC)が最小値となるモデル選択を行った結果、説明変数1)、3)、5)が含まれるモデルが選択された。重回帰分析の結果は以下となった。
説明変数1)「2022年度増益ダミー変数」および5)「前年同月比の売り上げの変動」はともに0.1%水準、3)「正社員の人手過不足感」は5%水準で「2023年夏季賞与の増減率」に有意に正の影響を与えた。
つまり、
①他の変数の値を固定したうえでは、2022年度に増益した企業の場合、2023年夏季賞与の増加率が6.5ポイント上昇する、
②他の変数の値を固定して、直近の正社員の過不足感が1段階だけ「不足」方向に向かうと、2023年夏季賞与の増加率が1.5ポイント上昇する、
③他の変数の値を固定して、前年同月比の売り上げの変動が1段階だけ「増加」方向に向かうと、2023年夏季賞与の増加率が2.6ポイント上昇する、
ということが示されている。
[1]帝国データバンク 「2023年夏季賞与の動向アンケート」(2023年6月9日発表)
[2]帝国データバンク 「2022年冬季賞与の動向調査」(2022年12月9日発表)
[3]帝国データバンク「2023年度の業績見通しに関する企業の意識調査」(2023年4月19日発表)
[4]帝国データバンク「TDB景気動向調査(2023年5月調査)」(2023年6月5日発表)
[5]「人手不足企業割合」は、TDB景気動向調査にて正社員の過不足感について「非常に不足」「不足」「やや不足」と回答した企業割合の合計
[6]2023年夏季賞与の増減率の平均を被説明変数、2022年度に利益が増加した企業の割合を説明変数として単回帰分析を行い、以下の結果が得られた。
2023年夏季賞与の増減率の平均=-16.303+0.553*2022年度増益企業割合[OLS、カッコ内p-値、自由度修正済み決定係数0.339]
[7]2023年度に利益が増加すると見込む企業の割合を説明変数として単回帰分析を行った。結果は以下となった。
2023年夏季賞与の増減率の平均=-8.550+0.3693*2023年度増益見込み企業割合[OLS、カッコ内p-値、自由度修正済み決定係数0.152]
[8]人手不足企業の割合を説明変数として単回帰分析を行った。結果は以下となった。
2023年夏季賞与の増減率の平均=-7.296+0.213*人手不足企業割合[OLS、カッコ内p-値、自由度修正済み決定係数0.087]
[9]「2023年夏季賞与の増減率」は「2023年夏季賞与の動向アンケート」で聞いた増減率の選択肢である「100%以上増(100%減)」「70~100%未満増(減)」「40~70%未満増(減)」「20~40%未満増(減)」「10~20%未満増(減)」「7~10%未満増(減)」「5~7%未満増(減)」「3~5%未満増(減)」「1~3%未満増(減)」「1%未満増(減)」「変わらない(0%)」の各選択肢のレンジの中間値
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:石井 ヤニサ
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E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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