好調な観光産業が抱える人手不足問題、解消策はあるだろうか?
2023年秋の観光シーズンは、天候に恵まれて外出する人が増え、全国の観光地で賑わいを取り戻しているようです。帝国データバンクが算出する観光産業[1]の景況感を表す観光DIをみると、マスク着用ルールが緩和された3月以降、観光DI[2]が全産業の景気DIを上回るようになりました(図表1)。直近10月では、観光DI(48.5)が全産業の景気DI(44.7)を3.8ポイント上回っています。
実際に、企業からは、
- 団体旅行が復活してきた(旅行代理店)
- 新型コロナで外出を控えていた方の反動により、団体旅行が増えた(国内旅行)
- 宿泊者が多く、宴会の利用も増えた(旅館)
- インバウンド観光客が増加し、ビジネス利用客も復帰している(旅館)
また、飲食店やレンタカー、観光バスなどの関連業界からも、
- 海外からの旅行者が増えたことで、売り上げが増加している(中華・東洋料理店)
- とにかく人出が多く、週末は活気がある。訪日外国人が特に貢献している(喫茶店)
- インバウンド需要がさらに拡大し、非常に好調な状況が継続している(自動車賃貸)
- インバウンドが好調に推移しているが、中国団体の訪日にともない、まもなくオーバーツーリズム状態になりそう(一般貸切自動車運送)
国内景気に伸び悩みの状態が続いているなかで、観光産業に対して大きな期待が寄せられています。ただし、観光産業は人手不足という深刻な問題を抱えていることも確かです。新型コロナ下において失われた働き手を再び取り戻すのは、多くの困難をともなうかもしれません。
帝国データバンクが提唱する「人材確保・人手不足解消の7カ条」[3]はそのための羅針盤ともなるでしょう。この7カ条をすべて行うことは難しいかもしれませんが、少しずつ始めることは可能です。例えば、リスキリングにより従業員が成長できる環境を用意したり、働きやすい職場を提供することなど、見える化していくことも重要です。こうした取り組みを通じて、観光産業がいっそう発展する基盤につながっていくと考えられます。
[1] 観光産業は非常にすそ野が広く、特定の業種分類として表すことは困難であり、個々の産業に関する統計整備にとどまる。そこで、本コラムでは、UNWTO(世界観光機関、World Tourism Organization)が示している国際基準であるTSA(旅行・観光サテライト勘定、Tourism Satellite Account)において観光産業(Tourism Industries)に分類されている業種に基づき、観光産業として定義した。
[2] 観光DIは、[1]で分類した観光産業に属する企業の景気判断を総合した指標。観光DIは0~100の値をとり、50より上であれば景気が「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる。
[3] 帝国データバンク「企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート」(2023年5月17日発表)。7カ条は、1.成長・安心できる職場、2.賃金の引き上げ、3.働き方の多様性、4.仕事の合理化、5.適材適所による効率化、6.慣例にとらわれない人事制度、7.職場へのアクセス・立地条件の各項目で構成される。