2022年3月の景気動向調査
仕入価格の上昇が過去20年で最高、価格転嫁追い付かず
■調査結果のポイント
- 2022年3月の景気DIは前月比0.5ポイント増の40.4となり、3カ月ぶりに改善した。原材料価格の高騰などで仕入単価DIが過去最高を記録。国内景気は、好悪両面の要因が顕在化したなかで下落傾向が停止し、わずかに上向いた。今後は、下振れリスクを抱えながらも、人出の増加などで緩やかに上向くと見込まれる。
- 『卸売』『サービス』など7業界が改善、『製造』『運輸・倉庫』など3業界が悪化した。ウクライナ情勢、新型コロナウイルスの影響で原材料価格の高騰がより深刻となるなか、仕入単価DIは10業界中8業界、販売単価DIも5業界で過去最高の水準まで上昇した。
- 10地域中6地域が改善、1地域が悪化、3地域が横ばいだった。まん延防止等重点措置が21日にすべての地域で解除されたことはプラス要因。一方、福島県沖地震は観光シーズンを前に地域経済の回復に水を差す格好となった。規模別では「大企業」「中小企業」「小規模企業」すべてが3カ月ぶりにそろって改善した。
< 2022年3月の動向 : 下落傾向に歯止め >
2022年3月の景気DIは前月比0.5ポイント増の40.4となり、3カ月ぶりに改善した。
3月の国内景気は、新規感染者数の漸減などのプラス要因と、ウクライナ情勢の長期化などにともなう原材料価格の高騰といったマイナス要因が入り混じるなかで、小幅な改善となった。プラス要因では、まん延防止等重点措置が対象地域すべてで解除され人出が徐々に活発となったほか、旺盛な自宅内消費の継続や値上げ前の駆け込み需要などが景況感を押し上げた。マイナス要因では、原油価格の高値推移や福島県沖地震は景況感を下押しした。特に原油価格は一時1バレル=123ドルに上昇し石油製品の値上げが相次いだうえ、急激な円安の進行で輸入物価が上昇するなど、仕入単価DIは過去最高の水準を記録した。
国内景気は、好悪両面の要因が顕在化したなかで下落傾向が停止し、わずかに上向いた。
< 今後の見通し : 緩やかな上向き >
今後1年程度の国内景気は、新型コロナウイルスの感染動向のほか、ウクライナ情勢の行方や原油を含む原材料価格の高騰などに注視する必要があろう。特に、「ガソリン・経費・材料の値上げ幅が大きく価格転嫁には半年かかる」(給排水・衛生工事)といった、仕入価格の上昇に対する販売価格への転嫁の状況次第で、企業の収益力に大きな影響を及ぼす可能性がある。他方、旺盛な自宅内消費の継続や5G関連の環境整備、半導体需要の増加などはプラス材料となろう。さらに、対面型サービス需要の拡大や挽回生産も期待される。
今後は、下振れリスクを抱えながらも、人出の増加などで緩やかに上向くと見込まれる。
業界別:人流の増加で7業界が改善も、仕入単価DIは8業界で過去最高に
- 『卸売』『サービス』など7業界が改善、『製造』『運輸・倉庫』など3業界が悪化した。ウクライナ情勢、新型コロナウイルスの影響で原材料価格の高騰がより深刻となるなか、仕入単価DIは10業界中8業界、販売単価DIも5業界で過去最高の水準まで上昇した。
- 『卸売』(38.6)…前月比0.9ポイント増。3カ月ぶりに改善。「幅広い商品の値上げ前の駆け込み需要がある」(紙製品卸売)、「巣ごもり需要と、商品値上げ前の前倒し受注が増大」(建築材料卸売)など、4月の価格改定を前に一部企業では駆け込み需要による影響がみられた。他方、「急激な円安による影響があるなか、販売価格に転嫁できない」(果実卸売)など、急激な円安による影響や、原油や木材、鉄など原材料価格の高騰が続くなか、『卸売』の仕入単価DIは71.4と調査開始後初めて70を上回った。業種別でも、石油卸売が含まれる「鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売」(81.3)など、6業種で過去最高の水準となった。
- 『小売』(33.3)…同1.4ポイント増。3カ月ぶりに改善。まん延防止等重点措置が解除され人出が徐々に活発となるなか、「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同6.8ポイント増)や「医薬品・日用雑貨品小売」(同4.7ポイント増)などが大きく改善した。他方、ガソリンスタンドや燃料小売が含まれる「専門商品小売」(同1.0ポイント減)は、3カ月連続での悪化で20台に低下。「燃料などの小売価格が急激に上昇しており、国の激変緩和措置が実行されても抑制しきれていない」といった声があがった。また、「ロシア産の水産原料が搬入できるか不透明」(鮮魚小売)など、一部企業でウクライナ情勢による影響もみられる。
- 『運輸・倉庫』(35.4)…同0.1ポイント減。3カ月連続で悪化。燃料価格の高騰で仕入単価DIは75.0と過去最高の水準まで上昇する一方、販売単価DIは51.8(同0.1ポイント減)と低下。企業からは、「取引先への価格転嫁がほとんどできておらず、収益環境は厳しさが増している」(一般貨物自動車運送)といった声があがった。また、「旅行業界はまだまだ厳しい」(一般旅行)など、観光関連も依然として厳しい状況が続いている。
- 『製造』(40.9)…同0.3ポイント減。3カ月連続で悪化。ウクライナ情勢の影響もあり、原材料の価格が高騰するなか、『製造』の仕入単価DIは75.6(同2.8ポイント増)まで上昇し、過去最高の水準となった。特に、「鉄鋼・非鉄・鉱業」(80.4)や、「建材・家具、窯業・土石製品製造」(76.6)、「電気機械製造」(74.1)など、12業種中6業種で過去最高の水準となり、それらの業種の景況感を下押しした。また、「半導体不足の深刻化と東北における地震の影響があり、悪影響を及ぼしてきた」(自動車部品・付属品製造)など、半導体不足や福島県沖での地震の影響もみられる。他方、「Go To キャンペーンなども再開されるとみられ、それに向けて年度末の印刷需要が動いている」(印刷)といった声も聞かれた。
規模別:3カ月ぶりに全規模が改善したものの、原材料高は下押し要因に
- 「大企業」「中小企業」「小規模企業」すべてが3カ月ぶりにそろって改善した。まん延防止等重点措置の解除が好材料な一方、建築資材や燃料などの価格高騰は下押し要因となった。
- 「大企業」(43.4)…前月比0.5ポイント増。3カ月ぶりに改善。不動産代理から「不動産売買が活発」といった声があがるなど『不動産』の景況感が好調だった。他方、『農・林・水産』は飼料価格の高騰や資材・運賃などのコストアップを受け大きく悪化した。
- 「中小企業」(39.8)…同0.5ポイント増。3カ月ぶりに改善したものの、2カ月連続で40を下回った。値上げ前の駆け込み需要や旺盛な自宅内消費が続く「飲食料品小売」など、『小売』は全9業種が改善。他方で『運輸・倉庫』は燃料高を受け3カ月連続で悪化した。
- 「小規模企業」(38.4)…同0.5ポイント増。3カ月ぶりに改善したものの、3カ月連続で40を下回った。まん延防止等重点措置の解除が好材料となるなか、「飲食店」は厳しい状況ながらも大きく上向いた。一方、建築資材の高騰は建材製造などで下押し要因となった。
地域別:10地域中6地域が改善の一方、福島県沖地震の影響も
- 『九州』など10地域中6地域が改善、『北海道』が悪化、『東北』『北陸』など3地域が横ばいだった。まん延防止等重点措置が21日にすべての地域で解除されたことはプラス要因。一方、福島県沖地震は観光シーズンを前に地域経済の回復に水を差す格好となった。
- 『九州』(40.9)…前月比1.4ポイント増。「人が動き出し経済が回り出した」(広告制作)といった声が聞かれるなど、「佐賀」を除く域内7県が上向き、3カ月ぶりに改善した。県別では「熊本」「大分」が大きく改善し、「大分」は都道府県別で第1位となった。
- 『北陸』(39.2)…同横ばい。「新潟」が改善した一方、「富山」「石川」「福井」の3県が悪化した。公共工事の減少傾向で『建設』が3カ月連続で悪化したほか、原油高にともなう燃料価格上昇などで『運輸・倉庫』は6カ月ぶりに20台へ下落した。
- 『東北』(37.0)…同横ばい。3月16日に発生した福島県沖地震の影響が「岩手」を中心に表れた。新幹線の運休や工場の稼働停止が発生した一方で、季節商品の荷動きには復調の兆しもみられた。域内6県のうち4県が都道府県別の順位で40位台となった。
◆TDB圏域別景気DI◆
企業が実感する地域の景況感により近づけるため、地域の経済的なつながりや交通網などを考慮し全国47都道府県を130の圏域に分割して、圏域別景気DIを算出
仕入単価DIと販売単価DIは調査開始以降で最高水準に 企業規模別の仕入単価DIと販売単価DI(2022年3月) 業種別の仕入単価DI~2022年3月調査、上位10業種~ 原材料価格の上昇に関する企業の声(抜粋) 企業の声の共起ネットワーク図(テキストマイニング分析) ※右の共起ネットワーク図は、テキストデータの中で頻出度合いが高い単語(円の大きさが、その単語の頻出度合いを表す)を抽出し、その単語間での関係の強さ(同じ文脈で使われているか)を線で表している。
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万4,561社、有効回答企業1万1,765社、回答率47.9%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し
・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2022年3月17日~3月31日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目
全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万4千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気DIの先行きを予測する指標。ARIMAモデルに、経済統計やTDB景気動向調査の「売り上げDI」、「設備投資意欲DI」、「先行き見通しDI」などを加えたstructural ARIMAモデルで分析し、景気予測DIを算出している。
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、杉原、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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