2022年8月の景気動向調査
感染者数増加の一方、季節需要がプラス材料
■調査結果のポイント
- 2022年8月の景気DIは前月比0.1ポイント増の41.4となり、2カ月ぶりに改善した。国内景気は、順調な季節需要やデジタル関連需要の拡大など、小幅ながら2カ月ぶりに上向きへと転じた。今後の景気は、通常の状態に戻ろうとするなかで、下方圧力を内在しつつもおおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
- 『サービス』『不動産』など5業界が改善、『運輸・倉庫』『卸売』など5業界が悪化した。デジタル化・DXへの動きが加速するなか、「情報サービス」などデジタル関連が堅調に推移した。一方、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加が続き、多くの業種で下押し要因となった。
- 10地域中4地域が改善、6地域が悪化した。都道府県別では24都県が改善、22道府県が悪化、1県が横ばいとなった。新型コロナによる観光への影響は地域間で濃淡がみられたほか、供給制約の悪材料も表れた。規模別では、「大企業」「中小企業」「小規模企業」が3カ月ぶりにそろって改善した。
- 『サービス』など5業界が改善、『運輸・倉庫』など5業界が悪化した。デジタル化・DXへの動きが加速するなか、「情報サービス」などデジタル関連が堅調に推移。一方、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加が続き、多くの業種で下押し要因となった。
- 『サービス』(45.4)…前月比1.0ポイント増。2カ月ぶりに改善。新規感染者数の増加が続いたものの、「県や市の補助のおかげで集客が増え、現状では売り上げが前年比で180%となっている」(旅館)など「旅館・ホテル」(同7.7ポイント増)が大幅に改善。また、DXやインボイス制度への対応が追い風となっている「情報サービス」(同1.2ポイント増)や、IT人材需要が高まっている「人材派遣・紹介」(同3.3ポイント増)も堅調に推移した。他方、「従業員の感染による人手不足で、営業の縮小・機会損失がある」(酒場、ビアホール)など、「飲食店」(同5.9ポイント減)や、老人福祉事業が含まれる「医療・福祉・保健衛生」(同1.3ポイント減)といった業種では、出社制限による影響がみられた。
- 『不動産』(44.8)…同0.1ポイント増。2カ月ぶりに改善。「新型コロナウイルスの感染者数は増加傾向も、行動制限がないため景気は前年より改善している」(不動産管理)といった声もあり、商業施設の運営・管理を行う不動産管理が改善。また、「都内の不動産価格が高騰し、安い郊外の人気が続いている」(不動産代理・仲介)などの声も聞かれた。他方、「消費者物価の上昇にともない、仕入れのコストが上昇しているが、価格転嫁できずに収益が圧迫している」(建物売買)など、資材の高騰は収益面へのマイナス材料となった。
- 『運輸・倉庫』(37.3)…同0.5ポイント減。2カ月ぶりに悪化。「車両注文から納車までの期間が1年半から2年に伸びている。燃料の高騰とアドブルー不足、また、ドライバー不足に加え新型コロナウイルスの陽性者が続出し仕事にならない」(一般貨物自動車運送)など、トラック不足や燃料価格の高騰、人手不足や出社制限が下押し要因となった。また、「旅行業を営んでいるが、最近の感染急拡大を受けて観光旅行に出かける団体が激減していると感じる」(旅行代理店)など、観光関連は厳しい水準での推移が続いた。
- 『卸売』(39.2)…同0.3ポイント減。6カ月ぶりに悪化。中国のロックダウンの影響で海外の鋼材需要が減少、鉄スクラップ価格の低下が続いた「再生資源卸売」(同1.3ポイント減)は4カ月連続での悪化。また、「繊維・繊維製品・服飾品卸売」(同横ばい)は「原材料高は変わらず、為替も年内は円安で推移していく見込みで、利益を圧迫する状態が続く」(下着類卸売)など原材料高や円安の影響を懸念する声もあり、30を下回る水準が続いた。一方、「テレワーク、IT導入補助金、事業再構築補助金などの関連でIT機器の引き合いが多い」(事務用機械器具卸売)との声もあり、デジタル投資関連はプラス要因となった。
- 「大企業」「中小企業」「小規模企業」が3カ月ぶりにそろって改善した。DX関連需要の拡大が大手企業を中心に景況感を押し上げた一方、価格転嫁の困難な状況が続いた。
- 「大企業」(43.8)…前月比0.4ポイント増。3カ月ぶりに改善。DX関連が活発なことで「情報サービス」が2年7カ月ぶり、IT人材の需要増が続く「人材派遣・紹介」が2年11カ月ぶりの水準まで上昇した。
- 「中小企業」(41.0)…同0.2ポイント増。2カ月ぶりに改善。行動制限のない夏休みシーズンで、県民割などの支援策もあり「旅館・ホテル」が新型コロナ禍前の水準まで上向いたほか、各種イベントやアウトドア関連も堅調。一方、『金融』は悪化に転じた。
- 「小規模企業」(39.8)…同0.1ポイント増。2カ月ぶりに改善も、引き続き30台で推移。「冷房器具など季節商品の売れ行きは順調」など『小売』が2カ月連続で上向いた一方、『運輸・倉庫』は輸送単価や保管料の値上げが十分にできず6カ月ぶりの悪化に転じた。
- 『北関東』『南関東』など10地域中4地域が改善、『四国』など6地域が悪化した。都道府県別では24都県が改善、22道府県が悪化、1県が横ばいとなった。新型コロナによる観光への影響は地域間で濃淡がみられたほか、供給制約の悪材料も表れた。
- 『北関東』(43.8)…前月比0.9ポイント増。5カ月連続で改善。域内5県が9カ月ぶりにそろって改善した。近隣県からの夏季旅行がプラス要因となったほか、物量の活発化もみられた。一方、一部では自動車等の生産停止の影響が表れた。
- 『南関東』(43.3)…同0.7ポイント増。2カ月ぶりに改善。域内1都3県すべてが上向いた。建材関連を含む『製造』が2カ月連続で改善した一方で、「仕事量は動いてきたが、原材料価格の高騰が激しい状況でも販売価格に転嫁できない」などの意見も聞かれた。
- 『四国』(37.7)…同0.6ポイント減。3カ月連続で悪化。域内4県のうち「香川」「愛媛」が改善した一方、「徳島」「高知」が悪化した。『運輸・倉庫』では「感染急拡大を受けて観光旅行に出かける団体が激減」「燃料高の影響」などの声もあり、大幅な悪化となった。
- 新型コロナウイルス感染症により、業績へ「マイナスの影響がある」とした企業は70.4%(前月比1.0ポイント増)となり2カ月連続で上昇。
2022年4月以来4カ月ぶりに7割を超えた。業種別では、行動制限のないなかであったが「旅館・ホテル」など個人向けサービス業では業績へ「マイナスの影響がある」とした企業は9割近くにのぼった - また、感染者や濃厚接触者の長期間の療養は、前月に続き企業活動を行う上で悪影響となっている
- AI(人工知能)やIoTなどDX関連サービス等を提供している企業の景気DIは50.5と全体を大きく上回る
- 「DXに取り組んでいる」企業の景気DIは、全体と比べても高い水準で推移
< 2022年8月の動向 : 小幅に改善 >
2022年8月の景気DIは前月比0.1ポイント増の41.4となり、2カ月ぶりに改善した。
8月の国内景気は、新型コロナウイルスの新規感染者数の増加が続いた一方、3年ぶりとなる行動制限のない夏シーズンの影響を受ける形での推移となった。冷房器具など季節商品の売れ行きが順調だったほか、お盆・夏休みによる観光需要も上向いた。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)関連が拡大するなか、情報サービス業に加え、IT人材の派遣需要などもプラス材料となった。一方で、燃料価格の高騰や人手不足の再燃が続くなか、感染者増にともなう出社制限などは悪材料だった。また、食品を含む生活必需品の相次ぐ値上げは個人消費を引き続き下押しした。
国内景気は、順調な季節需要やデジタル関連需要の拡大など、小幅ながら2カ月ぶりに上向きへと転じた。
< 今後の見通し : おおむね横ばい傾向で推移 >
今後1年間程度の国内景気は、ロシア・ウクライナ情勢の行方のほか、原油・原材料価格の高止まりや円安の進行、生活必需品の値上げ、供給制約の継続、新型コロナの感染動向、人手不足、米欧中経済の下振れなど、経済の下方圧力が種々顕在化しながら推移するとみられる。一方、DXなどデジタル需要の拡大のほか、各種経済対策の執行や行動制限のない行楽シーズン、対面型サービスを中心としたリベンジ消費などはプラス材料となる。また社会が平時に向かう力が景気を支える原動力となろう。
今後の景気は、通常の状態に戻ろうとするなかで、下方圧力を内在しつつもおおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
業界別:デジタル関連が堅調も、新規感染者数の増加が下押し要因に
規模別:3カ月ぶりに全規模がそろって改善、DX関連需要が活発
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万6,277社、有効回答企業1万1,935社、回答率45.4%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2022年8月18日~8月31日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万5千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気DIの先行きを予測する指標。ARIMAモデルに、経済統計やTDB景気動向調査の「売り上げDI」、「設備投資意欲DI」、「先行き見通しDI」などを加えたstructural ARIMAモデルで分析し、景気予測DIを算出している。
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、杉原、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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