2023年1月の景気動向調査
国内景気は2カ月連続で悪化、コスト負担高まる
■調査結果のポイント
- 2023年1月の景気DIは前月比0.9ポイント減の42.1となり、2カ月連続で悪化した。国内景気は、生活費の上昇に加え、設備稼働率の低下で生産・出荷が振るわず、2カ月連続で悪化した。今後は、海外経済情勢などの不確実性が高まるとみられるものの、おおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
- 10業界中7業界、51業種中37業種で悪化した。依然として原材料価格の高止まりや電気代などエネルギーコストの増加は企業活動の負担となっている。また、「旅館・ホテル」の落ち込みなど、ここまでけん引してきた全国旅行支援の効果にやや陰りも表れている。
- 10地域すべてが悪化した。全国的に新型コロナ感染が落ち着きを見せてきたなか、設備稼働率DIや生産・出荷量DIが全地域で減少するなど、41都道府県が悪化となった。降雪による費用負担なども景況感を下押し。規模別では、「大企業」が前月と同水準だった一方、「中小企業」「小規模企業」は2カ月連続で悪化した。
- 10業界中7業界、51業種中37業種で悪化した。依然として原材料価格の高止まりや電気代などエネルギーコストの増加は企業活動の負担となっている。また、「旅館・ホテル」の落ち込みなど、ここまでけん引してきた全国旅行支援の効果にやや陰りも表れている。
- 『運輸・倉庫』(38.9)…前月比2.7ポイント減。5カ月ぶりに悪化。「燃料費、車両費、整備費全てが上昇している」(一般貨物自動車運送)というように燃料価格の高騰を筆頭に経費増が重くのし掛かっている。さらにドライバー不足なども下押し要因となった。 また倉庫などで生鮮品等を扱う場合は終日の温度管理が必要となり電気代高騰は死活問題に。全国旅行支援による特需はみられたが「割引率が下がり利用者が減少」(旅行業代理店)や仕組みの煩雑さは悪材料、加えて海外旅行の不調など旅行業では厳しさがみられている。
- 『サービス』(46.6)…同1.1ポイント減。6カ月ぶりに悪化。閑散期を迎えるなか新型コロナの感染第8波の影響に加え、「全国旅行支援の割引額が少なくなった影響」(旅館)といった声が多い「旅館・ホテル」(同3.9ポイント減)や原材料費の高騰、自粛意識の高まりなどから「飲食店」(同3.0ポイント減)は大幅悪化となった。また、「メンテナンス・警備・検査」(同2.7ポイント減)は人材不足や整備部品の高騰などがマイナス材料となっている。 そのほか、「情報サービス」(同0.4ポイント減)は3カ月ぶりに減少となるも51業種中唯一50台を維持。「国のDX推進の後押しやコロナ禍で加速したIT化もあり案件が多い」(ソフト受託開発)とあるように依然として底堅さが表れている。
- 『製造』(40.4)…同1.1ポイント減。2カ月連続で悪化。「輸送用機械・器具製造」(同2.3ポイント減)は大手自動車メーカーの生産調整が響いたほか、燃料や原材料高騰分を価格に転嫁できず3カ月連続で悪化した。「諸物価の高騰により利益率が低下」(生コンクリート製造)といった声が多い「建材・家具、窯業・土石製品製造」(同3.0ポイント減)や設備投資の鈍化から「機械製造」(同1.6ポイント減)は2カ月連続で悪化。「在庫調整が始まってきた」(工業用プラスチック製品製造)という声がある「化学品製造」(同1.2ポイント減)も厳しい水準となった。 他方、一部で電子機器や医療機器などの受注が増加する「精密機械、医療機械・器具製造」(同0.2ポイント増)は2カ月連続で改善した。
- 『不動産』(46.1)…同1.3ポイント増。2カ月ぶりに改善。実質的利上げによる先行きの警戒感はあるものの「投資用、資産用不動産は活発」(不動産代理・仲介)や「賃貸市場がコロナ明けを睨み一気に動き出した印象がある」(貸家)といった声が聞かれ、回復基調が表れた。売買、賃貸ともに活気が戻りつつあるが、都心部を避け郊外移住が順調といった取引エリアによる濃淡はみられている。
- 「大企業」が前月と同水準だった一方、「中小企業」「小規模企業」は2カ月連続で悪化した。観光需要の取り込みなど、「大企業」と「中小企業」で景況感が分かれた。
- 「大企業」(44.8)…前月比横ばい。インバウンド需要のほか、「全国旅行割やイベントの開催で人流が徐々に戻っている」など『小売』が改善したほか、『金融』では「資金調達ニーズの高まりで貸出金が増加傾向」の声もあった。一方『製造』は4カ月連続で悪化した。
- 「中小企業」(41.6)…同1.0ポイント減。2カ月連続で悪化。『運輸・倉庫』や『サービス』など10業界中8業界が悪化した。「全国旅行支援の制度を利用しきれていない」なかで宿泊業の景況感が大幅に落ち込んだほか、製造原価の上昇による収益悪化も下押し要因。
- 「小規模企業」(40.4)…同0.9ポイント減。2カ月連続で悪化。『運輸・倉庫』は「倉庫の保管料金や運賃の値上げが思うように進んでいない」など、価格転嫁の遅れによる厳しい環境が続いた。また価格高騰などもあり「飲食店」は10.9ポイント減の大幅悪化となった。
- 『北海道』『北関東』『北陸』など10地域すべてが悪化した。全国的に新型コロナ感染が落ち着きを見せてきたなか、設備稼働率DIや生産・出荷量DIが全地域で減少するなど、41都道府県が悪化、5県が改善となった。降雪による費用負担なども景況感を下押しした。
- 『北海道』(40.1)…前月比0.7ポイント減。3カ月連続で悪化。『農・林・水産』や『建設』などが振るわなかった道東エリアの落ち込みが大きかった(同2.5ポイント減)。資材や燃料価格の高騰、降雪による除雪費用などコスト負担が重しとなった。
- 『北関東』(40.9)…同2.2ポイント減。2カ月連続で悪化。域内5県すべてで景況感が悪化した。「半導体不足で生産が減少」「中国のゼロコロナ政策による工場の閉鎖で在庫が増え生産調整を実施」など、各種機械製造の景況感の落ち込みの影響が関連業種に広がった。
- 『北陸』(40.9)…同1.3ポイント減。2カ月ぶりに悪化。域内4県のうち「新潟」「富山」「石川」が悪化した。公共工事の減少や原材料費の高騰などで『建設』がマイナスとなったほか、「娯楽サービス」や「旅館・ホテル」では季節需要が低調だった。
- 価格転嫁率は全体で39.9%、バリューチェーン別では『卸売』の転嫁状況と比較すると『製造』や『小売』関連は苦戦がみられる
- とりわけ、全商流に関わる『運輸・倉庫』は価格転嫁率が20.0%と厳しさが表れている
- 電気料金の平均変化率は28.7%、生産・出荷量DIは46.9。左下図の第4象限に位置する「化学品製造」などでは、生産量が増えていないなか電気料金が大きく上昇。コスト負担の高まりが顕著に
<2023年1月の動向 : 悪化続く>
2023年1月の景気DIは前月比0.9ポイント減の42.1となり、2カ月連続で悪化した。
1月の国内景気は、新型コロナウイルスの感染状況が徐々に落ち着きを見せていたなかで、原材料価格の高止まりや電気料金などエネルギーコストの増加などが悪化要因となった。また全国旅行支援の効果で上向いていた観光産業は、宿泊・飲食サービスを中心に大きく落ち込んだ。さらに大手製造業の生産調整や不十分な価格転嫁、月後半の寒波なども悪材料となった。
一方、投資用・資産用不動産は売買・賃貸とも活発だったほか、DX(デジタルトランスフォーメーション)などIT投資需要も引き続き好調だった。
国内景気は、生活費の上昇に加え、設備稼働率の低下で生産・出荷が振るわず、2カ月連続で悪化した。
<今後の見通し : 横ばい傾向で推移>
今後1年間程度の国内景気は、平時に向かう社会とともに経済活動の正常化が景気を下支えする一方、米中欧などの海外経済やウクライナ情勢、今後の金利動向などの影響を受けつつ推移する。脱炭素やサプライチェーンの見直しなどは設備投資のプラス要因。また急速に進んだ円安からの調整などは景気の押し上げ要因となろう。さらに全国旅行支援の継続やインバウンド消費の拡大、賃上げの動きやDX需要の拡大なども好材料。
一方で、コロナ関連融資の返済本格化にともなう負担の増加、新型コロナ感染の動向、生活費の上昇、人手不足の深刻化などはマイナス材料となる。
今後は、海外経済情勢などの不確実性が高まるとみられるものの、おおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
業界別:7業界37業種で悪化。原材料価格や電気代高騰は企業活動の重荷に
規模別:「大企業」が横ばいとなった一方、「中小企業」は2カ月連続で悪化
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万7,362社、有効回答企業1万1,719社、回答率42.8%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2023年1月18日~1月31日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万6千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気予測DIは、ARIMAモデルと構造方程式モデルの結果をForecast Combinationの手法で算出。破線は予測値の幅(予測区間)を示している
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。