2023年2月の景気動向調査
国内景気は足踏み状態、十分な価格転嫁進まず
■調査結果のポイント
- 2023年2月の景気DIは前月から横ばいの42.1となった。国内景気は、価格転嫁が十分に進まない一方で人手不足感の高まりが続くなど、足踏み状態で推移した。今後は、下振れ要因を多く抱えて弱含みながらも、おおむね横ばい傾向で推移すると見込まれる。
- 仕入価格の高止まりや部材の入手難などが『製造』や『建設』を中心に悪影響となった。加えて、価格転嫁の問題や人材確保など企業を取り巻く環境に厳しさは続いている。しかしながら、『サービス』『小売』など5業界で、厳しいながらも改善がみられた。
- 10地域中5地域、20府県が悪化、5地域、22道県が改善。各地域の景況感が分かれ、3年1カ月ぶりに10地域の格差が7.6ポイントまで拡大。また売り上げDIが36道府県で50を下回り、各地で売上高が前年比減少した。規模別では、「大企業」が悪化した一方、「中小企業」と「小規模企業」は3カ月ぶりに改善した。
- 仕入価格の高止まりや部材の入手難などが『製造』や『建設』を中心に悪影響となった。加えて、価格転嫁の問題や人材確保など企業を取り巻く環境に厳しさは続いている。しかしながら、『サービス』『小売』など5業界で、厳しいながらも改善がみられた。
- 『サービス』(47.4)…前月比0.8ポイント増。2カ月ぶりに改善。人出の増加やインバウンドの復活、イベントの開催などが好材料となり「飲食店」(同3.9ポイント増)は大幅な改善となった。「リース・賃貸」(同0.6ポイント増)は、レンタカーなどで「インバウンド需要は11月以降爆発的に増加している。ビジネス需要も堅調な状況が継続」(自動車賃貸)とあるように3カ月ぶりに上向いた。「情報サービス」(同0.6ポイント増)は2カ月ぶりに改善し唯一の50台。一方で、さまざまな商品・サービス価格の高騰が続くなか「旅行や出張における宿泊費が抑えられている」(旅館)といった声に加え、閑散期も重なり「旅館・ホテル」(同0.3ポイント減)は3カ月連続の悪化となった。
- 『小売』(37.7)…同0.2ポイント増。2カ月連続で改善。「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同1.5ポイント増)は人出の増加などにより4カ月ぶりに改善した。花粉の飛散などにより医療関係は忙しくなっているという声もある「医薬品・日用雑貨品小売」(同1.3ポイント増)は3カ月ぶりの改善。他方、スーパーストアなどを含む「各種商品小売」(同1.5ポイント減)や「飲食料品小売」(同1.7ポイント減)では、食料品をはじめとする商品サービスの価格高騰による買い控えを危惧する声が多数聞かれた。
- 『製造』(40.0)…同0.4ポイント減。3カ月連続で悪化。「飲食料品・飼料製造」(同1.1ポイント減)は、原材料や電気代などの高騰による影響や、価格へ十分に転嫁できないことなどを受け3カ月連続で悪化した。「鉄鋼・非鉄・鉱業」(同0.7ポイント減)は「自動車生産が依然として不安定」(鍛工品製造)といった声が聞かれ4カ月連続で悪化。「化学品製造」(同1.1ポイント減)や「電気機械製造」(同0.1ポイント減)では、半導体を中心に部材の入手難などが下押し要因になった。他方で、一部企業で受注案件の増加が聞かれる「精密機械、医療機械・器具製造」(同2.5ポイント増)は3カ月連続で改善した。
- 『建設』(43.7)…同0.4ポイント減。3カ月連続で悪化。「案件はあるものの材料、人件費などがコストアップし安定した利益が確保できない」(一般管工事)といった声が多く、原材料費や人件費の高騰が悪影響となっている。加えて、職人不足など人材確保も各社苦慮しているほか、重層下請けにより価格転嫁が難しい構造も悪材料となっている。そのほか「物価高騰にともなう消費マインドの低下」(一般土木建築工事)など、住宅需要を中心に購買意欲を懸念する声も聞こえている。
- 「大企業」が2カ月ぶりに悪化した一方、「中小企業」と「小規模企業」は3カ月ぶりに改善した。人流が回復も、物価上昇やコスト高のほか、人件費の上昇なども下押し要因に。
- 「大企業」(44.2)…前月比0.6ポイント減。2カ月ぶりに悪化。『小売』は「値上げ基調による生活者の買い控え」など、来店客数や買い上げ点数が低調だった。また「アルバイトの採用が難しい」ことで人件費の上昇なども響いた。
- 「中小企業」(41.7)…同0.1ポイント増。3カ月ぶりに改善。『農・林・水産』は「木材価格が安定」していたことなどで2カ月ぶりに改善した。一方、原材料やLNG、電気料金高騰のコスト増加に対しては、価格転嫁や生産性向上などの対応が追いつかず下押しした。
- 「小規模企業」(40.9)…同0.5ポイント増。3カ月ぶりに改善。「人の流れが活性化している」飲食店や「韓国などからのインバウンドの回復」を受けた旅館・ホテルなどを含む『サービス』が大きく改善した。また家電など『小売』も3カ月ぶりに上向いた。
- 『東北』『南関東』など10地域中5地域、20府県が悪化、『九州』など5地域、22道県が改善。各地域の景況感が分かれ、3年1カ月ぶりに10地域の格差が7.6ポイントまで拡大した。また売り上げDIが36道府県で50を下回り、各地で売上高が前年比減少した。
- 『東北』(37.2)…前月比0.8ポイント減。3カ月連続で悪化。域内6県のうち「青森」「宮城」など4県が悪化、「山形」「福島」が改善した。燃料費などの高止まりが続くなかで、「公共工事が大幅に減少」「発注量が減少」など『建設』が大きく悪化した。
- 『南関東』(43.9)…同0.2ポイント減。域内のうち「東京」が横ばい、3県が悪化した。一部で「自社努力で何とか売り上げを達成している」の声が聞かれた。売り上げDIは10地域で唯一50を上回ったが、設備稼働率の低下が続くなど収益環境の厳しさが響いた。
- 『九州』(44.8)…同0.8ポイント増。3カ月ぶりに改善。域内8県のうち「佐賀」「宮崎」「沖縄」など6県が改善、「熊本」が悪化した。「プロ野球などキャンプの平常開催」などWBC効果や人流増加が好材料となり、『九州』が景況感の全国上位5県を独占した。
- 在庫(53.2)は50を上回り増加傾向が続いている。在庫循環は、現在「意図せず在庫増」局面となるもやや「在庫調整」局面に近づきつつある
- 仕入単価DI(72.9)および販売単価DI(60.9)は、ピークは過ぎつつあるがそれぞれ高止まり傾向
- 従業員の人手不足割合は正社員51.7%(2023年1月)、非正社員31.0%(同)と新型コロナ流行以前の水準に
- 人手不足が激しい「旅館・ホテル」や「飲食店」では、価格転嫁率も低く、2023年の賃上げ見込み割合も低い
<2023年2月の動向 : 足踏み>
2023年2月の景気DIは前月から横ばいの42.1となった。
2月の国内景気は、新型コロナウイルス新規感染者数の急速な減少による人流増加が押し上げ要因となった一方、引き続きコスト負担の増加などの影響を受けつつ推移した。原材料価格・電気料金の高騰や生活必需品の価格上昇、不十分な価格転嫁の状況は景気のマイナス材料だった。
他方、IT投資需要や不動産、アパレル卸売などは上向いた。観光産業は、物価高や全国旅行支援の割引率減少などの影響で宿泊サービスの悪化が続いたものの、インバウンドの復活やイベントの開催などは好材料となった。
国内景気は、価格転嫁が十分に進まない一方で人手不足感の高まりが続くなど、足踏み状態で推移した。
<今後の見通し : おおむね横ばい傾向で推移>
今後1年間程度の国内景気は、経済社会活動の正常化に向けた動きが景気を支えながらも、米中欧などの海外経済やロシア・ウクライナ情勢、金利動向などの影響を受けつつ推移する。全国旅行支援の効果やインバウンド消費の拡大、賃上げの動きなどで対面型サービスを中心に個人消費の増加が見込まれるほか、DX需要の拡大、為替の安定や省人化・自動化に対する設備投資なども好材料となろう。
一方で、生活費の上昇や人手不足の深刻化、コロナ関連融資の返済などはマイナス材料。また実質賃金の低下が長期化すると消費の下押し要因となる。さらに日本銀行による金融政策の行方は注目される。
今後は、下振れ要因を多く抱えて弱含みながらも、おおむね横ばい傾向で推移すると見込まれる。
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万7,607社、有効回答企業1万203社、回答率37.0%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2023年2月14日~2月28日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万6千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気予測DIは、ARIMAモデルと構造方程式モデルの結果をForecast Combinationの手法で算出。破線は予測値の幅(予測区間)を示している
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。