2023年8月の景気動向調査
景気は小幅に悪化、台風上陸で人流・物流が停滞
■調査結果のポイント
- 2023年8月の景気DIは前月比0.3ポイント減の44.9となり、2カ月ぶりに悪化した。景気は、ガソリンを含むエネルギー価格の上昇や台風上陸による人流・物流の停滞などもあり、小幅なマイナスとなった。今後の国内景気は、好材料と悪材料が混在するなかで、おおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
- 本格的な夏シーズンを迎え各地で盛り上がりをみせたが、台風の影響やエネルギー価格の高騰などにより10業界中7業界で悪化した。地域別では、10地域中7地域が悪化、1地域が改善した。台風の上陸により交通網が寸断され、帰省や旅行などを含めヒト・モノの移動の混乱が下押し要因となった。また燃料価格の高騰も悪材料。他方、インバウンド需要は好調だった。規模別では、「大企業」と「中小企業」が2カ月ぶりに悪化、「小規模企業」は3カ月ぶりに改善した。
- 価格転嫁率は全体で43.6%(2023年7月)。前回調査(2022年12月)と比較して上昇がみられるも、依然として4割程度の転嫁状況にとどまる。
<2023年8月の動向 :小幅悪化>
2023年8月の景気DIは前月比0.3ポイント減の44.9となり、2カ月ぶりに悪化した。景気は、ガソリンを含むエネルギー価格の上昇や台風上陸による人流・物流の停滞などもあり、小幅なマイナスとなった。
本格的な夏シーズンのなか、お盆休みが集中するタイミングで台風が上陸。鉄道や航空便の運休、高速道路の通行止めなど、交通インフラが被害を受け、人流や物流がストップした。旅行・観光業への影響は大きく、宿泊業や飲食、娯楽サービスなどを含む観光DIが悪化した。さらに、生活必需品の価格上昇のほか、ガソリン・軽油を含むエネルギー価格の高騰もマイナス要因となった。
他方、猛暑による関連グッズの販売が好調だったほか、半導体供給不足の緩和は自動車生産などで好材料となった。
< 今後の見通し : 横ばいで推移 >
今後は、賃上げの広がりやインバウンドの拡大などがプラス材料となろう。経済・社会システムが再構築されていくなかで、DXや脱炭素化の推進、自動化・省力化投資の拡大が見込まれる。
他方、生活必需品や電気代を含むエネルギー価格の上昇などは家計の節約志向を高める可能性がある。人手不足や中国経済の減速、地政学的リスクなども景気の下押し要因となろう。また金融市場の動向は注視する必要がある。
今後の国内景気は、好材料と悪材料が混在するなかで、おおむね横ばい傾向で推移するとみられる。
業界別:10業界中7業界が悪化、台風の上陸など天候不順がマイナス材料に
- 本格的な夏シーズンを迎え各地で盛り上がりをみせたが、お盆の時期に台風が上陸し人流や物流がストップ。さらに、観光施設の臨時休業などが景気の下押し要因となった。加えて長期化するエネルギー価格の高騰もマイナス材料となり、10業界中7業界で悪化した。
- 『サービス』(50.8)…前月比0.9ポイント減。7カ月ぶりに悪化。各地で全国旅行支援が終了したことやお盆の時期に直撃した台風の影響などで「旅館・ホテル」(同1.1ポイント減)は2カ月ぶりに悪化した。猛暑や天候不順に左右されたゴルフ場を含む「娯楽サービス」(同0.5ポイント減)も同じく2カ月ぶりの悪化。値上げの影響を受け節約行動がマイナス要因となり「飲食店」(同3.4.ポイント減)も下向いた。他方、夏期講習などで繁忙期を迎えるとともに、「海外からの渡航制限がなくなり留学生が増加」(個人教授所)といった声が聞かれる「教育サービス」(同3.1ポイント増)は3か月ぶりに改善した。イベント開催が活気づいてきた「広告関連」(同0.4ポイント増)は4カ月ぶりの上向きとなった。
- 『製造』(41.2)…同0.3ポイント減。2カ月ぶりに悪化。顧客の在庫増にともない減産の影響が出ているといった声が聞かれる「電気機械製造」(同0.1ポイント減)は2カ月連続で下向いた。「鉄鋼・非鉄・鉱業」(同0.8ポイント減)は、中国など海外経済の減速や在庫調整による生産・出荷量の減少などが響き2カ月ぶりに悪化した。「輸送用機械・器具製造」(同横ばい)は深刻な半導体供給不足が改善したものの、一部工場での操業停止が響いた。 他方、ポストコロナにおいて地元の観光業やクラフトビールなどが堅調で「飲食料品・飼料製造」(同1.4ポイント増)は3カ月ぶりに上向いた。
- 『小売』(41.8)…同0.1ポイント減。4カ月連続で悪化。経費が増加するなか診療報酬の改定が追いつかず経営環境を圧迫しているなどの声もある「医薬品・日用雑貨品小売」(同2.7ポイント減)は4カ月連続で悪化した。またガソリン価格の値上がりなどで「専門商品小売」(同0.1ポイント減)は2カ月連続で下向いた。物価上昇にともなう消費者の節約志向の高まりの影響などを受けた「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同0.2ポイント減)は4カ月ぶりに悪化した。 他方、消費者の節約志向が続くなか、帰省シーズンにより一時的な需要回復がプラス要因に働いた「飲食料品小売」(同1.6ポイント増)などが改善した。
- 『不動産』(49.6)…同0.8ポイント増。3カ月ぶりに改善。「全般的に買い意欲が続いている」(建物売買)や「来店客数、売り上げともに回復基調にある」(貸事務所)といった声が多く聞かれた。また、「福岡の都市再開発事業・天神ビッグバンの影響もあるが、売買の動きもよい。価格も相場以上である」(不動産管理)というように各地の再開発事業が好材料だった。 他方、価格が上がり過ぎて取引件数が少ないといった声も一部であがっている。
規模別: 「大企業」「中小企業」が2カ月ぶりに悪化、各規模内で二極化進む
- 「大企業」「中小企業」が2カ月ぶりに悪化、「小規模企業」は3カ月ぶりに改善した。各規模において業種間や企業間で二極化する傾向がみられた。
- 「大企業」(48.0)…前月比0.6ポイント減。2カ月ぶりに悪化。土地や物件価格の高騰で販売が伸び悩んでいるほか、テナントの賃料負担能力が回復途上で、『不動産』の景況感が悪化した。一方で、自動車の生産安定化や好調な海外需要はプラス材料となった。
- 「中小企業」(44.3)…同0.3ポイント減。2カ月ぶりに悪化。『サービス』は人材派遣・紹介や警備・メンテナンスなど10業種が下落し、7カ月ぶりに悪化した。他方、金融機関の住宅向け融資が積極的だったことから『不動産』の景況感が上向いた。
- 「小規模企業」(43.5)…同0.1ポイント増。3カ月ぶりに改善。電気機械や飲食料品などの製造業のほか、秋の国内旅行の予約が好調に推移した。他方、台風の影響で飲食店や宿泊業が大きく落ち込んだほか、建設資材の高騰や人手不足の深刻化などが悪材料となった。
地域別:全10地域中7地域が悪化、交通インフラの寸断で人流・物流に影響
- 『北海道』『中国』など10地域中7地域が悪化、『九州』のみが改善した。台風の上陸により交通網が寸断され、帰省や旅行などを含めヒト・モノの移動の混乱が下押し要因となった。また燃料価格の高騰も悪材料。他方、インバウンド需要は好調だった。
- 『中国』(44.3)…前月比1.0ポイント減。2カ月ぶりに悪化。域内5県のうち「鳥取」「広島」など4県が悪化した。特に「お盆の時期に台風の大雨での影響が大きい」など、需要が高まる時期の天候不順で機会損失が生じたほか、工場の操業停止も響いた。
- 『北海道』(44.8)…同0.8ポイント減。7カ月ぶりに悪化。札幌市を含む道央エリアのほか、道東や日胆エリアがいずれも悪化した。ガソリンなど燃料価格の高騰が自動車で移動する夏のレジャー需要にマイナスとなった。
- 『東海』(44.4)…同横ばい。域内4県のうち「岐阜」「三重」が改善、「愛知」「静岡」が悪化した。インバウンド需要は引き続き好調に推移した。また、半導体不足の緩和で生産活動が持ち直したが、月末にかけての自動車工場の操業停止で下振れた。
- 価格転嫁率は全体で43.6%。前回調査(2022年12月)と比較して上昇がみられるも、依然として4割程度の転嫁状況にとどまる
- 全商流に関わる『運輸・倉庫』(26.2%)は、2割台にとどまり厳しい転嫁状況となっている
- 大手自動車メーカーの生産回復にともない「輸送用機械・器具製造」の景気DIは46.2と、上向き傾向が続いている
- 業界内の価格転嫁は進みつつある。直近の「自動車・同部品小売」は仕入販売ギャップが1桁台で推移した
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万7,667社、有効回答企業1万1,571社、回答率41.8%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2023年8月18日~8月31日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万7千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気予測DIは、ARIMAモデルと構造方程式モデルの結果をForecast Combinationの手法で算出。破線は予測値の幅(予測区間)を示している
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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