2023年9月の景気動向調査
景気は2カ月連続で小幅悪化
■調査結果のポイント
- 2023年9月の景気DIは前月比0.5ポイント減の44.4となり、2カ月連続で悪化した。国内景気は、エネルギーなどコスト負担増加や節約志向の高まりのほか海外経済の停滞も加わり、小幅ながら広範囲の地域や業種で下落傾向が続いた。今後の国内景気は、賃上げの継続がカギとなり、価格転嫁による企業の財務改善と家計の節約志向が交錯するなかで、横ばい傾向で推移するとみられる。
- 原材料価格やエネルギーコストの高止まり、円安、米欧中経済の成長鈍化が企業活動を行う上での重荷となり3年5カ月ぶりに全10業界で悪化した。地域別では、8カ月ぶりに10地域すべてが悪化した。雨が少なく観光地は堅調だったが、消費者の節約志向や物流の停滞などが各地の景況感を下押しした。規模別では、「大企業」「中小企業」「小規模企業」が3カ月ぶりにそろって悪化となった。
- 日次景気DIは、シルバーウィーク後半に47.5(23-24日)を記録した。期間中は多くの日で前月(44.9)を上回ったが、26日以降急落した。
<2023年9月の動向 :小幅な悪化傾向>
2023年9月の景気DIは前月比0.5ポイント減の44.4となり、2カ月連続で悪化した。規模・10業界・10地域のすべてが悪化したのは2020年4月(同6.7ポイント減)以来3年5カ月ぶり。国内景気は、エネルギーなどコスト負担増加や節約志向の高まりのほか海外経済の停滞も加わり、小幅ながら広範囲の地域や業種で下落傾向が続いた。
原材料価格やガソリンなどエネルギーコストの高止まりに加えて、食品など生活必需品の値上げによる節約志向の高まりなどが下押し要因となった。また、中国ほか海外経済の減速、季節外れの猛暑も悪材料。他方、好材料としては、雨の少なさやインバウンドを追い風に観光DIが4カ月ぶりに改善、半導体不足の緩和による好調な自動車生産、株高による資産効果、10月開始のインボイス制度へのシステム需要などがあげられる。
< 今後の見通し :横ばいで推移 >
今後は、プラス材料として設備投資やインバウンドの拡大などがけん引役となろう。DXや脱炭素化の推進、政府による経済対策の実施、価格転嫁による企業の財務改善もプラス材料となりうる。他方、生活必需品の価格上昇や人手不足の長期化、2024年問題なども景気の下押し要因となろう。中国経済の成長鈍化や欧米における金利の先行き、為替動向なども注視する必要がある。
今後の国内景気は、賃上げの継続がカギとなり、価格転嫁による企業の財務改善と家計の節約志向が交錯するなかで、横ばい傾向で推移するとみられる。
業界別:全10業界が悪化、コスト高や円安、海外経済の減速が悪材料に
- コロナ禍2020年4月以来、3年5カ月ぶりに全10業界で悪化した。原材料価格やガソリンなどエネルギーコストの高止まり、円安の影響が企業活動を行う上での重荷となっていた。加えて、中国ほか海外経済の停滞感や長引く猛暑なども下押し要因となった。
- 『金融』(46.8)…前月比2.0ポイント減。2カ月ぶりに悪化。「取引先の業績が悪化傾向にあると感じている」(普通銀行)といった声のほか、リスケなどの相談が増加傾向にあるといった声も寄せられている。また家計への負担増の影響などから「保険を見直す人が増えた」(損害保険代理)といった意見もあげられた。
他方、「円安や株高が追い風」(証券投資信託委託)など一部で明るい声が聞かれた。 - 『サービス』(50.4)…同0.4ポイント減。2カ月連続で悪化。猛暑やコスト増が悪材料となり「娯楽サービス」(同2.6ポイント減)は2カ月連続で悪化した。クライアントからの発注量が減少したという声もある「人材派遣・紹介」(同2.0ポイント減)も2カ月連続で悪化。「販売単価は据え置きが多くコロナ禍よりも利益が減少」(ソフト受託開発)というように「情報サービス」(同0.9ポイント減)も2カ月連続で下向いた。ただし、インボイス関連などIT投資は堅調で24カ月連続で50台を維持した。
他方、シルバーウィークによる賑わいやインバウンドなどで「旅館・ホテル」(同2.1ポイント増)は2カ月ぶりに改善。レンタカーなど「リース・賃貸」(同0.2ポイント増)は3カ月ぶりに改善した。 - 『小売』(41.4)…同0.4ポイント減。5カ月連続で悪化。猛暑続きで秋物の動きが悪いといった声が聞かれた「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同4.6ポイント減)は2カ月連続で悪化。光熱費などの経費増加が重荷となった「医薬品・日用雑貨品小売」(同0.1ポイント減)は5カ月連続で悪化した。大手中古車販売店の問題により業界全体に不信感が募っているなど厳しい意見があがる「自動車・同部品小売」(同0.3ポイント減)は3カ月ぶりに下向いた。食料品など生活必需品の価格上昇のため買い控えが目立つ「各種商品小売」(同2.6ポイント減)も3カ月ぶりに悪化した。
- 『製造』(40.8)…同0.4ポイント減。2カ月連続で悪化。原材料高騰などで得意先との折り合いが付かないなどの声がある「機械製造」(同1.6ポイント減)や生産量の落ち込みがみられる「鉄鋼・非鉄・鉱業」(同0.1ポイント減)は2カ月連続で下向いた。「化学品製造」(同横ばい)は自動車関連が好調といった声が聞かれたが、中国経済の減速などが下押し要因に。
他方、半導体不足の緩和から自動車生産の回復がみられる「輸送用機械・器具製造」(同2.1ポイント増)は2カ月ぶりに改善。案件増の声や設備の稼働に改善がみられた「精密機械、医療機械・器具製造」(同1.3ポイント増)は3カ月ぶりに上向いた。
規模別: 全規模が3カ月ぶりにそろって悪化、コロナ後の景況感分かれる
- 「大企業」「中小企業」「小規模企業」が3カ月ぶりにそろって悪化した。コスト負担の高まりやインボイスへの対応が急がれるなか、企業間でコロナ後の景況感が分かれてきた。
- 「大企業」(47.8)…前月比0.2ポイント減。2カ月連続で悪化。『運輸・倉庫』では軽油など燃料価格の高騰に直面するなか、輸送・配送コストの上昇で荷主の負担感も増大した。
一方で、『小売』は人流の活発化により顧客のリアル店舗への回帰などがプラス材料だった。 - 「中小企業」(43.8)…同0.5ポイント減。2カ月連続で悪化。『不動産』は、販売価格が堅調ななか、転勤による移動の減少など不安定な状況が続いた。残暑で秋物衣料の販売が伸びずアパレル小売は5カ月ぶりに悪化するなど、3年5カ月ぶりに全10業界が悪化した。
- 「小規模企業」(43.0)…同0.5ポイント減。2カ月ぶりに悪化。「情報サービス」は、仕事量が引き続き多いものの、人手不足感の高まりなどが下押し材料となった。また契約者の保険見直しなども広がり、『金融』が大きく悪化した。
- 『北陸』『近畿』『四国』など8カ月ぶりに10地域すべてが悪化した。うち2カ月以上連続して悪化したのは7地域だった。雨が少なく観光地は堅調だったが、消費者の節約志向や物流の停滞などが各地の景況感を下押しした。またガソリン価格の上昇も悪材料となった。
- 『北陸』(42.5)…前月比0.6ポイント減。4カ月連続で悪化。域内4県のうち「富山」「石川」の2県が悪化した。『建設』『卸売』など10業界中7業界が下落し、貨物の物流量が大きく減少。加えて「ガソリン価格の高騰による利益低下」も景況感を下押しした。
- 『近畿』(43.2)…同0.4ポイント減。4カ月連続で悪化。「滋賀」「和歌山」「京都」が改善、「奈良」「兵庫」「大阪」が悪化した。プロ野球チームのセ・パ両リーグの優勝は一部で押し上げ要因となったが、中国向け販売の低迷や消費者の買い控えなどが悪材料だった。
- 『四国』(41.2)…同0.6ポイント減、2カ月連続で悪化。域内4県のうち「徳島」「香川」「高知」の3県が悪化した。観光産業は堅調だったものの、節約志向の高まりのほか、造船業などで人手不足にともない受注を断念する動きもみられた。
- 日次景気DIは、シルバーウィーク後半に47.5(23-24日)を記録
- 期間中は多くの日で前月(44.9)を上回ったものの、26日以降調査期間の後半にかけて急落した
- OECDが発表した最新の経済見通しでは、ユーロ圏、中国などで減速傾向を示した
- 企業からは中国経済はじめ海外経済の動向に対して、不安視する声が多数寄せられている
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万6,991社、有効回答1万1,039社、回答率40.9%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2023年9月15日~9月30日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万7千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気予測DIは、ARIMAモデルと構造方程式モデルの結果をForecast Combinationの手法で算出。破線は予測値の幅(予測区間)を示している
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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