2023年10月の景気動向調査
景気は3カ月ぶりに小幅改善、各地域の観光が好調
■調査結果のポイント
- 2023年10月の景気DIは前月比0.3ポイント増の44.7となり、3カ月ぶりに改善した。国内景気は、活発な各種イベントやインバウンド需要に加えて半導体関連などがプラス材料となり、小幅ながら上向いた。今後の国内景気は、海外情勢のリスクを抱えつつも、個人消費と設備投資が下支えし、横ばいで推移すると見込まれる。
- 行楽シーズンを迎え各種イベント開催やインバウンド需要に支えられ、各地の賑わいが好材料となり、10業界中9業界で改善した。地域別では、10地域中7地域28道府県が改善、3地域19都県が悪化した。好調な観光産業のほか、主力産業の生産・販売の上向きが各地域のプラス要因となった。規模別では、「大企業」「中小企業」「小規模企業」が小幅ながら5カ月ぶりにそろって改善した。
- 2023年度の最低賃金は全国加重平均で1,004円(前年度比43円増)。これを受け企業は賃上げほか、商品値上げやコスト削減などの対応を行う。
<2023年10月の動向 :小幅な改善 >
2023年10月の景気DIは前月比0.3ポイント増の44.7となり、3カ月ぶりに改善した。
国内景気は、活発な各種イベントやインバウンド需要に加えて半導体関連などがプラス材料となり、小幅ながら上向いた。
10月は、インバウンド需要や行楽シーズンによる国内旅行の好調を受け、各地の観光産業が景気の押し上げ要因となった。また企業系イベントやプロモーションの再開など、個人消費を喚起する動きが活発化。さらに半導体関連は引き続き好調だった。
他方、原材料価格の高止まりや慢性的な人手不足、在庫増加による生産調整、生活必需品の値上げなどは下押し要因となるなど、好悪材料が交錯するなかで力強さに欠ける状態が続いた。
< 今後の見通し :横ばいで推移 >
今後は、最低賃金の引き上げによる所得増加が個人消費にプラス材料となるほか、設備投資やインバウンド需要の一段の拡大が見込まれる。またGX(グリーントランスフォーメーション)の推進や企業の業績改善、減税などを含む経済対策の実施などもプラス材料となりうる。
他方、人件費の増加や生活必需品価格の高止まり、人手不足の長期化、2024年問題などは下押し要因となる。また中東情勢の緊迫化や中国の不動産市場の動向など、為替動向を含め海外経済の動きにも注視する必要がある。
今後の国内景気は、海外情勢のリスクを抱えつつも、個人消費と設備投資が下支えし、横ばいで推移すると見込まれる。
業界別: 10業界中9業界が改善、各地の賑わいやIT需要などが好材料に
- 行楽シーズンを迎え各種イベント開催やインバウンド需要に支えられ、各地の賑わいが好材料となった。そのほか、IT関連や半導体関連の需要が好調といった声もあり、10業界中9業界で改善した。他方、原材料価格の高止まりや慢性的な人手不足は下押し要因だった。
- 『運輸・倉庫』(44.1) … 前月比1.3ポイント増。3カ月ぶりに改善。「百貨店、商業施設、小売業等に関する物流が回復」(一般貨物自動車運送)というように需要の増加を実感する声があがった。またコスト増加による影響を受けつつも燃料に係る政府の補助金は一定の効果を与えている。さらに、バス旅行や学校送迎が増加したこと、各所でイベントが復活したことなどは貸切バスやタクシー利用で景気の押し上げ要因となった。 ただし、ドライバー不足や燃料価格の高止まりや、2024年問題に対する危機意識が高まりをみせている。
- 『小売』(41.9) … 同0.5ポイント増。6カ月ぶりに改善。一気に季節が進むなか衣替えのシーズンを迎え、婦人衣料を中心に「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同6.1ポイント増)は3カ月ぶりに改善。インフルエンザの流行などで「医薬品・日用雑貨品小売」(同1.3ポイント増)は6カ月ぶりに上向いた。 他方、食品値上げよる買い控えが生じる「飲食料品小売」(同1.0ポイント減)や「各種商品小売」(同0.6ポイント減)はともに2カ月連続で悪化。価格高騰などで「家具類小売」(同9.1ポイント減)は2カ月ぶりに落ち込んだ。
- 『サービス』(50.8) … 同0.4ポイント増。3カ月ぶりに改善。好調なインバウンド需要に加え、行楽シーズンが好材料となり「旅館・ホテル」(同2.1ポイント増)は2カ月連続で改善した。レジャー、ビジネスともに好調なレンタカーなど「リース・賃貸」(同3.3ポイント増)も2カ月連続で改善し4カ月ぶりに50台に達した。インボイス需要は落ち着きがみられるが依然として引き合いの多い「情報サービス」(同0.5ポイント増)は3カ月ぶりに上向いた。 他方、人出は多くなっているものの、人件費や原材料費などの高騰ほか、節約志向の高まりなどにより「飲食店」(同4.4ポイント減)は3カ月連続で悪化した。
- 『製造』(41.1) … 同0.3ポイント増。3カ月ぶりに改善。半導体関連の需要が順調といった声が複数あがる「鉄鋼・非鉄・鉱業」(同1.7ポイント増)は3カ月ぶりに改善した。「店舗関係の工事が多い」(建具製造)や「先進的窓リノベ事業など補助金が追い風」(板ガラス加工)といった明るい声が聞かれた「建材・家具、窯業・土石製品製造」(同1.3ポイント増)は3カ月連続で改善し10カ月ぶりに40台に回復。
他方、回復が続く自動車生産であるが、大手自動車メーカーの稼働停止を受け、売り上げ面で影響が出ているなどの声が寄せられた「輸送用機械・器具製造」(同1.4ポイント減)は9カ月ぶりに悪化した。また中国経済の減速などを受け「機械製造」(同0.5ポイント減)は3カ月連続で下向いた。
規模別: 全規模が5カ月ぶりに改善、『建設』『製造』『サービス』は全規模で上昇
- 「大企業」「中小企業」「小規模企業」が小幅ながら5カ月ぶりにそろって改善した。企業規模により回復業種が異なるなか、『建設』『製造』『サービス』はすべての規模で上向いた。
- 「大企業」(47.9)… 前月比0.1ポイント増。3カ月ぶりに改善。「広告関連」ではイベントやプロモーションなどが回復してきたほか、慢性的な人手不足が続くIT技術者などの人材派遣業は好調だった。一方で、中古車など自動車小売は下押し要因となった。
- 「中小企業」(44.1)… 同0.3ポイント増。3カ月ぶりに改善。マンション建設が堅調ななか、建設資材などの荷動きが活発化した。また「相場高値による販売価格の上昇」(養鶏)や「例年より魚価が高めで推移」(まき網漁業)など、『農・林・水産』が上向いた。
- 「小規模企業」(43.4)… 同0.4ポイント増。2カ月ぶりに改善。「バス旅行や学校送迎が増加」(一般貸切旅客自動車運送)などバス需要が表れた。多くの受注があるソフトウェア業も堅調。『小売』は来客数の増加がプラス材料となるなど4カ月ぶりに改善へと転じた。
- 『東海』『九州』など10地域中7地域が改善、『東北』など3地域が悪化。都道府県別では28道府県が改善、19都県が悪化した。好調な観光産業のほか、主力産業の生産・販売の上向きが各地域のプラス要因となった。他方、一部では在庫増加による生産調整もみられた。
- 『東海』(44.4) … 前月比0.8ポイント増。3カ月ぶりに改善。域内4県のうち「三重」「静岡」「愛知」の3県が改善した。生産・出荷の回復がみられた自動車の販売が上向いた。観光客の回復とともに、大手百貨店の改装需要なども重なりアパレル小売が大きく改善した。
- 『九州』(48.6) … 同0.9ポイント増。2カ月ぶりに改善。域内8県のうち「沖縄」「大分」など7県が改善、「佐賀」が悪化した。観光産業が好調だったほか、「鹿児島」はかごしま国体の好影響もみられるなど、『九州』は9カ月連続で全10地域中トップを維持した。
- 『東北』(41.4) … 同0.1ポイント減、3カ月連続で悪化。域内6県のうち「山形」「岩手」など3県が悪化した。在庫調整にともなう生産減少など各種機械を含む『製造』が下押しした。一方で、紅葉シーズンに入り宿泊業や飲食店など『サービス』は堅調だった。
- 2023年度の最低賃金は全国加重平均で1,004円(前年度比43円増)。これを受け企業は賃上げほか、商品値上げやコスト削減などの対応を行う
- 個人消費にプラス材料といえるが、最低賃金の上昇にともなう人件費の増加は企業収益に悪影響となるといった声も複数あがっている
- TSMC(熊本県菊陽町)など全国各地に半導体工場の投資計画が予定され、企業からは半導体関連の案件が増加といった声があがっている
- ただし、半導体の製造装置を製造する業界は、スマートフォンなどの販売一巡などから、直近の景況感は低調に推移している
【調査先企業の属性】
1.調査対象(2万7,052社、有効回答企業1万1,506社、回答率42.5%)
2.調査事項
・景況感(現在)および先行きに対する見通し・経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
3.調査時期・方法
2023年10月18日~10月31日(インターネット調査)
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万7千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している。
■企業規模区分
企業の多様性が増すなか、資本金や従業員数だけでは計りきれない実態の把握を目的に中小企業基本法に準拠し、全国売上高ランキングデータを加え下記の通り区分している。
■景気予測DI
景気予測DIは、ARIMAモデルと構造方程式モデルの結果をForecast Combinationの手法で算出。破線は予測値の幅(予測区間)を示している
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田、池田、石井
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。