インフレ手当に関する企業の実態アンケート
「インフレ手当」、企業の6.6%が支給。予定・検討中を含めると4社に1社が取り組む
~ 支給額の平均は一時金5万3,700円、月額手当6,500円 ~
~ 支給額の平均は一時金5万3,700円、月額手当6,500円 ~
物価高騰による実質賃金の減少などを背景として、連合(日本労働組合総連合会)は2023年の春季労使交渉で、28年ぶりの高水準となる5%の賃上げを求める方針を固めた。また経団連は2023年の春闘に臨むにあたり、物価動向を最重視して、手当や賞与、一時金などを含めた賃上げを呼びかけるとしている。
一方で政府は、10月28日に閣議決定された総合経済対策において、物価上昇をカバーする賃上げの実現を目標に掲げた。こうしたなか、食料品や光熱費などの相次ぐ値上げに対応するため、従業員の生活支援を目的とした「特別手当」を支給する企業が出てきている。
そこで、帝国データバンクは、インフレ手当についてアンケートを行った。
- アンケート期間は2022年11月11日~15日、有効回答企業数は1,248社(インターネット調査)
アンケート結果
インフレ手当を支給した企業は6.6%、予定や検討中も含めると全体の4社に1社が取り組む
物価高騰をきっかけとして、従業員に対して特別手当(インフレ手当)の支給を実施または検討しているか尋ねたところ、「支給した」企業は全体の6.6%となった。また「支給を予定している」は5.7%、「支給していないが、検討中」は14.1%となり、合わせると全体の4社に1社(26.4%)がインフレ手当に取り組んでいる。他方、「支給する予定はない」は63.7%となった。既に支給した企業からは「物価の高騰が続き、社員やパート社員の生活が困窮しないように一時金を全従業員に支給」(事業サービス)と、記録的な円安水準や原材料価格の高騰を背景に、食料品などの値上げラッシュが続くなか、実質賃金の減少を補うために支給するとの声が聞かれた。また「物価高騰のなかで少しでも社員のモチベーションアップにつながればよい」(工業用薬品卸売)、「食費・光熱費などの負担増は現実問題であり、人材流出の防止策としても実施する予定」(建物売買)とあるように、従業員のモチベーションアップや人材定着といった狙いもうかがえる。
支給する予定はない企業からは、「インフレで会社の営業収支が悪化しており、まずはそちらの対策が優先と考えている」(建築工事)と、企業の仕入れコストが上昇傾向にあるなかで自社業績が悪化し、従業員へ金銭的な補填をする余裕がないとの声も聞かれた。
また「特別手当としてではなく、4月に実施する定例の賃金改定時に賃上げを予定」(自動車操縦装置製造)というように、特別手当でなくベースアップにより、物価上昇への対応を予定する企業もあった。
インフレ手当の支給有無
平均支給額は一時金が5万3,700円、月額手当が6,500円
インフレ手当の支給方法および支給額(予定・検討中の企業を含む、複数回答)について尋ねたところ、インフレ手当に取り組む企業のうち「一時金」と回答した企業は66.6%、「月額手当」は36.2%となった。企業からは「月額手当にしてしまうと、手当を下げねばならない時にインパクトが大きくなるので、賞与に追加して今をしのいでもらいたい」(鉄鋼卸売)との声が聞かれた。そのうち「一時金」の支給額は、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多く、「3万円~5万円未満」および「5万円~10万円未満」が21.9%となった。「10万円~15万円未満」は9.1%、「15万円以上」は7.3%と、10万円以上を支給する企業は15%超にのぼった。「一時金」の平均支給額[1]は約5万3,700円。企業からは「冬季賞与にプラスして0.5カ月分のインフレ手当を予定」(ソフト受託開発)と賞与にプラスして支給する声が聞かれた。
「月額手当」の支給額は、「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」が30.3%で最も多く、「3千円未満」(26.9%)が続き、1万円未満が全体の9割となった。「1万円~3万円未満」は11.8%、「3万円以上」は0.8%となった。「月額手当」の平均支給額は約6,500円。月額手当を選択した企業からは、燃料価格が高止まりするなかで「通勤手当以外にガソリン高騰による補填分として支給」(機械修理)との声が一部で聞かれた。
インフレ手当 支給方法・平均支給額(予定・検討中含む、複数回答)
「インフレ手当を支給・予定・検討中」の企業の声【一時金を支給】
- 会社自体も電気代などのコストが上昇しており、それら全てを製品に価格転嫁できていないなかで、社員に対して手当を出すことは難しい(金属プレス製品製造)
- 今年の昇給額を例年より高めに設定しているので、特別手当は考えていない(肉製品製造)
- 一時金なら賞与、月額なら基本給に含めたほうが効果的と感じる。一過性の手当の場合は手当がなくなる時期の影響が心配(ソフト受託開発)
まとめ
本アンケートの結果、インフレ手当を「支給した」企業は全体の6.6%となった。「支給を予定」(5.7%)と「支給していないが、検討中」(14.1%)を含め、全体の4社に1社がインフレ手当に取り組んでいる。支給方法(予定・検討中含む)は「一時金」が取組企業の66.6%、「月額手当」が36.2%で、平均支給額(同)は「一時金」が約5万3,700円、「月額手当」が約6,500円となった。手当支給の目的として、物価高騰で実質賃金が低下する従業員の生活を下支えする、モチベーションアップ、人材の定着があげられる。ただし本来、物価の上昇分は特別手当でなくベースアップとして賃金に反映するのが望ましいであろう。帝国データバンクが実施した調査では物価動向などを理由に5割を超える企業で賃金改善を見込んでいた[2]一方で、コスト上昇分をすべて販売価格に転嫁できず収益が低迷していることが、ベースアップや手当支給に踏み切れない1つの要因となっている。このため政府は、企業が価格転嫁しやすい環境の整備や賃上げを促す支援策の実行などが求められる。
[1]平均支給額は、支給方法を「一時金」または「月額手当」と回答した企業を対象に、各選択肢の中央値に各回答社数を乗じ加算したものから全回答社数で除したもの
[2] 「2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査」(2022年2月発表)。2023年度の同様の調査は2023年1月実施(2月発表)予定
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:伊藤 由紀、池田 直紀
TEL:03-5919-9343
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