<緊急調査>2024年度賃上げ実績と初任給の実態アンケート
企業の77.0%が賃上げ実施も、
3社に2社は「賃上げ率5%」に届かず
~ 価格転嫁難しく、企業規模間で「格差拡大」懸念高まる ~
労働団体の連合が4月4日に発表した2024年春闘の第3回回答集計結果で、全体の賃上げ率は平均で5.24%[1]と33年ぶりの高水準となり、連合が掲げる「5%以上」の目標を超えた。
人手不足の深刻化や物価の高騰などに対して、より一層の賃上げが期待されるなかで新年度がスタートした。大企業を中心に人材確保を目的とした初任給引き上げの動きが相次いでいる状況である。
一方、中小企業からは賃上げに対する厳しい声があがっており、政府・日銀が目指す「賃金と物価の好循環」が実現できるかが注目されている。
そこで帝国データバンクは、新年度の賃上げの実績および新入社員の初任給について企業へアンケートを行った。
- アンケート期間は2024年4月5日~15日、有効回答企業数は1,050社(インターネット調査)
アンケート結果
3社に2社は「賃上げ率5%」に届かず
2024年4月の正社員給与の前年同月からの変化(見込み含む)について尋ねたところ、『賃上げ』する/した企業は77.0%となった。その内訳をみると、「3%増加」とした企業が22.0%でトップとなり、「5%増加」(15.0%)、「2%増加」(12.4%)が続いた[2]。
一方で、『据え置き』は16.6%、『賃下げ』は0.6%であった。連合の目標である「賃上げ率5%以上」を実現した企業割合は26.5%にとどまった一方、5%未満は67.7%と3社に2社にのぼり、厳しい結果となった。なお、『正社員はいない/分からない』は5.8%であった。
2024年度の賃上げ実績(2024年4月時点)
規模別、小規模企業の賃上げ実施割合は65.2%と全体を10ポイント以上下回る
規模別に『賃上げ』する/した企業の割合をみると、「大企業」は77.7%、「中小企業」は77.0%とほぼ同水準となった。
一方で、「小規模企業」は65.2%と全体(77.0%)を11.8ポイント下回った。
『賃上げ』を行う企業からは、「従業員のモチベーションアップや人材確保のためにもさらなる賃上げは必要」(飲食料品・飼料製造、給与「6%~8%増加」)のほか、「原料費などの高騰を完全に価格転嫁できていないため大幅な賃上げ実施は難しいが、従業員の士気向上のためわずかながら賃上げを行った」(出版・印刷、給与「1%増加」)のように、コスト増で厳しいながらも賃上げを行った企業は一定数存在している。
一方で、『据え置き』企業からは、「仕入れや水道光熱費などの固定費が上がっており賃上げどころではない」(専門商品小売)のほか、「売り上げが上がっていないなかでの賃上げは、中小企業にとってかなり厳しいものがある」(その他サービス)のように、資金的余裕が少ない中小企業から賃上げに対して厳しい声があがっていた。
『賃上げ』割合 ~企業規模別~
45.3%の企業で新卒社員を採用。「大企業」76.2%、「小規模企業」23.7%と二極化
2024年度入社における新卒社員の採用状況について尋ねたところ、『採用あり』は45.3%、『採用なし』は53.1%となった。
規模別に『採用あり』の割合をみると、「大企業」は76.2%と全体(45.3%)を約30ポイント上回った一方で、「中小企業」は40.9%、「小規模企業」は23.7%となり、全体を大きく下回った。
中途採用しか行っていない企業が複数みられるほか、「2024年4月入社は募集したが応募がなかったため、来年度を見据えて賃金の底上げを図った」(建設)との声にあるように、採用活動を行ったものの人材を獲得できなかった企業もあった。
2024年度 新卒社員の採用状況
初任給、3社に1社が20万円未満。大企業と中小企業の間で「格差拡大」の懸念
新卒社員の採用がある企業に対して、初任給[3]の金額を尋ねたところ、「20~24万円」が57.4%でトップ、次いで「15~19万円」が33.3%で続いた。初任給が『20万円未満』の企業の割合は35.2%と、3社に1社となった。
「新卒社員の獲得のため初任給を引き上げる」(鉄鋼・非鉄・鉱業)といった声が聞かれた。
一方で、「求人市況を考えると、初任給を含め、賃金の増額は必須と考えているが、仕入れ価格の高騰に対し販売価格がとても追いつかず、特に中小企業の経営は苦しい」(機械製造)のように、初任給など賃金を引き上げたいが、経営状況により諦めざるを得ない企業もあった。その影響で、「大企業、メガバンクなどの初任給大幅アップが大々的に報道されているが、中小企業はとてもそのような金額は出せないため、格差の拡大を感じる」(化学品製造)というように、大企業と中小企業の間で採用に関して格差拡大の懸念が広がっている。
2024年度 初任給の金額
まとめ
本アンケートの結果、2024年4月時点で8割近くの企業が賃上げを行うことが分かった。人手不足のなか、大企業を中心に賃上げ機運が高まっていることも踏まえ、労働力の確保・定着を目的に初任給を含む賃金の引き上げを行う中小企業が多くみられた。特に従業員数101~300人の企業では競争が激しく、人材の獲得・定着に対する危機感が強いこともあり、賃上げを行う企業の割合が比較的高かった。
しかし、原材料価格や労務費などの上昇分を十分に販売価格に転嫁できないために賃上げに必要な原資の確保が難しいことや、資金的余裕が少ないことなどを背景に、大企業並みの賃上げが難しい中小企業は多く、賃上げ率が5%を下回る企業は3社に2社にのぼった。中小企業からは「大企業との賃上げ格差が拡大し、人材の確保が一段と困難になっている」との声も聞かれた。
賃上げが広く浸透すれば家計の可処分所得の増加による購買意欲の向上が企業収益の改善につながり、やがて経済が好循環のプロセスに乗ることが期待される。日本の法人企業のうち多数を占める中小企業の賃上げが進まなければ、この好循環、そして景気回復の実現は難しいほか、中小企業における人手不足問題の深刻度は増す恐れがある。
足元では円安の進行、エネルギー価格の上昇などコストアップにつながるリスクが高まっているが、中小企業はコストの上昇分を上手く見える化して価格改定の交渉を行うほか、自社商品の付加価値を上げるなど、価格転嫁を行いやすくする工夫が一策と言える。加えて、デジタル化・省人化を通して生産性の向上を図ることで賃上げ原資を確保するなど、さまざまな対策が必要となってくるであろう。
【企業からのコメントと給与の変化】
- 従来の賃金では、求人しても応募すらない(建設 9~11%増加)
- 人手の確保のためには賃上げせざるを得ない状況である(飲食店 6~8%増加)
- 国が賃金アップを唱えたので、賃上げしないと人手不足が解消されない(専門サービス 5%増加)
- 賃上げの原資となる売り上げ・利益はまだ確保できていないが、将来への投資と思い、経営判断で上げる。潤っている大企業と違い、今年の賃上げは重たい印象(家電・情報機器小売 3%増加)
- 採用が厳しく、初任給・賃金をもっと上げるべきとは思うが、業績がコロナ前までには戻っておらず最低限の額になっている(飲食料品・飼料製造 3%増加)
- 大企業が大規模な賃上げを行っているため、自社のような中小企業と格差が拡大し、人員の確保が一段と困難になっている(繊維・繊維製品・服飾品小売 3%増加)
- 賃上げは物価高騰や大企業の昇給状況などを踏まえ、人員確保のために実施すべきだが、原資確保のために諸コストを価格転嫁すると顧客離れが起きてしまう(飲食料品卸売 2%増加)
- ベースアップを行いたいが、諸コストの高騰と受注減で利益が減少しているため難しい。顧客へ価格交渉を実施して受注減になる企業が続出しているもよう(輸送用機械・器具製造 1%増加)
- 顧客が販売価格を上げさせてくれないので、賃上げする余裕はない(専門商品小売 0%(据え置き))
- 賃上げはできないため自動化を図り、機械生産への依存度を上げ、就業時間を短縮した(鉄鋼・非鉄・鉱業 0%(据え置き))
[1]うち組合員300人未満の中小組合の賃上げ率は平均4.69%で過去と比べて高水準である
[2]『賃上げ』は、正社員一人あたりのベースアップと定期昇給。『賃上げ(賃下げ)』は「1%増加(減少)」「2%増加(減少)」「3%増加(減少)」「4%増加(減少)」「5%増加(減少)」「6%~8%増加(減少)」「9%~11%増加(減少)」「12%以上増加(減少)」の合計。『据え置き』は「0%(賃上げはない)」
[3]初任給は、HPや求人票に明示していた金額、自社で初任給と認識する金額について、メインとなる学歴の、2024年4月に新卒枠で採用した・する社員が対象
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:石井 ヤニサ、伊藤 由紀、池田 直紀
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。
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3社に2社は「賃上げ率5%」に届かず
~ 価格転嫁難しく、企業規模間で「格差拡大」懸念高まる ~
労働団体の連合が4月4日に発表した2024年春闘の第3回回答集計結果で、全体の賃上げ率は平均で5.24%[1]と33年ぶりの高水準となり、連合が掲げる「5%以上」の目標を超えた。
人手不足の深刻化や物価の高騰などに対して、より一層の賃上げが期待されるなかで新年度がスタートした。大企業を中心に人材確保を目的とした初任給引き上げの動きが相次いでいる状況である。
一方、中小企業からは賃上げに対する厳しい声があがっており、政府・日銀が目指す「賃金と物価の好循環」が実現できるかが注目されている。
そこで帝国データバンクは、新年度の賃上げの実績および新入社員の初任給について企業へアンケートを行った。
- アンケート期間は2024年4月5日~15日、有効回答企業数は1,050社(インターネット調査)
アンケート結果
3社に2社は「賃上げ率5%」に届かず
2024年4月の正社員給与の前年同月からの変化(見込み含む)について尋ねたところ、『賃上げ』する/した企業は77.0%となった。その内訳をみると、「3%増加」とした企業が22.0%でトップとなり、「5%増加」(15.0%)、「2%増加」(12.4%)が続いた[2]。一方で、『据え置き』は16.6%、『賃下げ』は0.6%であった。連合の目標である「賃上げ率5%以上」を実現した企業割合は26.5%にとどまった一方、5%未満は67.7%と3社に2社にのぼり、厳しい結果となった。なお、『正社員はいない/分からない』は5.8%であった。
2024年度の賃上げ実績(2024年4月時点)
規模別、小規模企業の賃上げ実施割合は65.2%と全体を10ポイント以上下回る
規模別に『賃上げ』する/した企業の割合をみると、「大企業」は77.7%、「中小企業」は77.0%とほぼ同水準となった。一方で、「小規模企業」は65.2%と全体(77.0%)を11.8ポイント下回った。
『賃上げ』を行う企業からは、「従業員のモチベーションアップや人材確保のためにもさらなる賃上げは必要」(飲食料品・飼料製造、給与「6%~8%増加」)のほか、「原料費などの高騰を完全に価格転嫁できていないため大幅な賃上げ実施は難しいが、従業員の士気向上のためわずかながら賃上げを行った」(出版・印刷、給与「1%増加」)のように、コスト増で厳しいながらも賃上げを行った企業は一定数存在している。
一方で、『据え置き』企業からは、「仕入れや水道光熱費などの固定費が上がっており賃上げどころではない」(専門商品小売)のほか、「売り上げが上がっていないなかでの賃上げは、中小企業にとってかなり厳しいものがある」(その他サービス)のように、資金的余裕が少ない中小企業から賃上げに対して厳しい声があがっていた。『賃上げ』割合 ~企業規模別~ 45.3%の企業で新卒社員を採用。「大企業」76.2%、「小規模企業」23.7%と二極化
2024年度入社における新卒社員の採用状況について尋ねたところ、『採用あり』は45.3%、『採用なし』は53.1%となった。
規模別に『採用あり』の割合をみると、「大企業」は76.2%と全体(45.3%)を約30ポイント上回った一方で、「中小企業」は40.9%、「小規模企業」は23.7%となり、全体を大きく下回った。
中途採用しか行っていない企業が複数みられるほか、「2024年4月入社は募集したが応募がなかったため、来年度を見据えて賃金の底上げを図った」(建設)との声にあるように、採用活動を行ったものの人材を獲得できなかった企業もあった。
2024年度 新卒社員の採用状況
初任給、3社に1社が20万円未満。大企業と中小企業の間で「格差拡大」の懸念
新卒社員の採用がある企業に対して、初任給[3]の金額を尋ねたところ、「20~24万円」が57.4%でトップ、次いで「15~19万円」が33.3%で続いた。初任給が『20万円未満』の企業の割合は35.2%と、3社に1社となった。「新卒社員の獲得のため初任給を引き上げる」(鉄鋼・非鉄・鉱業)といった声が聞かれた。
一方で、「求人市況を考えると、初任給を含め、賃金の増額は必須と考えているが、仕入れ価格の高騰に対し販売価格がとても追いつかず、特に中小企業の経営は苦しい」(機械製造)のように、初任給など賃金を引き上げたいが、経営状況により諦めざるを得ない企業もあった。その影響で、「大企業、メガバンクなどの初任給大幅アップが大々的に報道されているが、中小企業はとてもそのような金額は出せないため、格差の拡大を感じる」(化学品製造)というように、大企業と中小企業の間で採用に関して格差拡大の懸念が広がっている。
2024年度 初任給の金額
まとめ
本アンケートの結果、2024年4月時点で8割近くの企業が賃上げを行うことが分かった。人手不足のなか、大企業を中心に賃上げ機運が高まっていることも踏まえ、労働力の確保・定着を目的に初任給を含む賃金の引き上げを行う中小企業が多くみられた。特に従業員数101~300人の企業では競争が激しく、人材の獲得・定着に対する危機感が強いこともあり、賃上げを行う企業の割合が比較的高かった。しかし、原材料価格や労務費などの上昇分を十分に販売価格に転嫁できないために賃上げに必要な原資の確保が難しいことや、資金的余裕が少ないことなどを背景に、大企業並みの賃上げが難しい中小企業は多く、賃上げ率が5%を下回る企業は3社に2社にのぼった。中小企業からは「大企業との賃上げ格差が拡大し、人材の確保が一段と困難になっている」との声も聞かれた。
賃上げが広く浸透すれば家計の可処分所得の増加による購買意欲の向上が企業収益の改善につながり、やがて経済が好循環のプロセスに乗ることが期待される。日本の法人企業のうち多数を占める中小企業の賃上げが進まなければ、この好循環、そして景気回復の実現は難しいほか、中小企業における人手不足問題の深刻度は増す恐れがある。
足元では円安の進行、エネルギー価格の上昇などコストアップにつながるリスクが高まっているが、中小企業はコストの上昇分を上手く見える化して価格改定の交渉を行うほか、自社商品の付加価値を上げるなど、価格転嫁を行いやすくする工夫が一策と言える。加えて、デジタル化・省人化を通して生産性の向上を図ることで賃上げ原資を確保するなど、さまざまな対策が必要となってくるであろう。
【企業からのコメントと給与の変化】
- 従来の賃金では、求人しても応募すらない(建設 9~11%増加)
- 人手の確保のためには賃上げせざるを得ない状況である(飲食店 6~8%増加)
- 国が賃金アップを唱えたので、賃上げしないと人手不足が解消されない(専門サービス 5%増加)
- 賃上げの原資となる売り上げ・利益はまだ確保できていないが、将来への投資と思い、経営判断で上げる。潤っている大企業と違い、今年の賃上げは重たい印象(家電・情報機器小売 3%増加)
- 採用が厳しく、初任給・賃金をもっと上げるべきとは思うが、業績がコロナ前までには戻っておらず最低限の額になっている(飲食料品・飼料製造 3%増加)
- 大企業が大規模な賃上げを行っているため、自社のような中小企業と格差が拡大し、人員の確保が一段と困難になっている(繊維・繊維製品・服飾品小売 3%増加)
- 賃上げは物価高騰や大企業の昇給状況などを踏まえ、人員確保のために実施すべきだが、原資確保のために諸コストを価格転嫁すると顧客離れが起きてしまう(飲食料品卸売 2%増加)
- ベースアップを行いたいが、諸コストの高騰と受注減で利益が減少しているため難しい。顧客へ価格交渉を実施して受注減になる企業が続出しているもよう(輸送用機械・器具製造 1%増加)
- 顧客が販売価格を上げさせてくれないので、賃上げする余裕はない(専門商品小売 0%(据え置き))
- 賃上げはできないため自動化を図り、機械生産への依存度を上げ、就業時間を短縮した(鉄鋼・非鉄・鉱業 0%(据え置き))
[1]うち組合員300人未満の中小組合の賃上げ率は平均4.69%で過去と比べて高水準である
[2]『賃上げ』は、正社員一人あたりのベースアップと定期昇給。『賃上げ(賃下げ)』は「1%増加(減少)」「2%増加(減少)」「3%増加(減少)」「4%増加(減少)」「5%増加(減少)」「6%~8%増加(減少)」「9%~11%増加(減少)」「12%以上増加(減少)」の合計。『据え置き』は「0%(賃上げはない)」
[3]初任給は、HPや求人票に明示していた金額、自社で初任給と認識する金額について、メインとなる学歴の、2024年4月に新卒枠で採用した・する社員が対象
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:石井 ヤニサ、伊藤 由紀、池田 直紀
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
リリース資料以外の集計・分析については、お問い合わせ下さい(一部有料の場合もございます)。