円安に関する企業の影響アンケート(2024年5月)

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円安の進行、企業の63.9%が「利益にマイナス」
~ 適正な為替レート、「110円~120円台」が半数~

5月15日17時時点では1ドル=156円9銭~11銭。日米金利差などを背景に外国為替レートは、2021年以降円安傾向で推移している。とりわけ4月に入ると円安が急加速し、4月29日には34年ぶりに一時1ドル=160円台をつける場面もあった。その後一転して円高方向に変動するなど、乱高下を繰り返すも、150円台にとどまっている。


企業からは円安による原材料・燃料価格などの輸入物価の上昇を危惧する声が聞かれる一方で、上場する製造業を中心に過去最高の当期純利益を更新したほか、インバウンド消費が活発になるなど、企業活動にさまざまな影響が及んでいる。


そこで帝国データバンクは、円安が企業へ及ぼす影響についてアンケートを行った。

  • アンケート期間は2024年5月10日~15日、有効回答企業数は1,046社(インターネット調査)


アンケート結果

  1. 円安の進行、企業の63.9%が「利益にマイナス」。3割超が「売上高・利益ともにマイナス」

    昨今の円安が自社の業績(売上高と経常利益)にどのような影響があるか尋ねたところ、【売上高】に「プラス影響」が16.0%、「マイナス影響」が35.0%、「影響なし」が49.0%だった。

    一方で、【利益】については「プラス影響」が7.7%、「マイナス影響」が63.9%、「影響なし」が28.5%と、およそ3社に2社がこのところの円安によって、利益面でマイナスの影響を受けていることが分かった。


    【売上高】と【利益】それぞれの影響の組み合わせでみると、【売上高】マイナス影響×【利益】マイナス影響が31.7%で最も高く、3割超の企業が「売上高・利益ともにマイナスの影響」を受けている。次いで【売上高】影響なし×【利益】マイナス影響(23.7%)、為替は業績には影響しない【売上高】影響なし×【利益】影響なし(23.5%)が続いた。


    企業からは、「輸入材料が多く、メーカーが価格を上げてきたら、それを受け入れるしかない」(医療・福祉・保健衛生)や、「輸入資材やエネルギーの高騰分を価格転嫁できておらず、収益が低下している」(不動産)というように、円安による原材料価格などの上昇が避けられない一方で、自社の商品・サービスへ上昇分を価格転嫁することは厳しい実情が多く聞かれた。


    また、「円安の影響で輸入時計や宝石が軒並み値上げ。価格が高騰しすぎて消費意欲が低迷し、売り上げも減少」(専門商品小売)や、「国内メーカーなど仕入先の価格調整(上昇)を受けて販売価格へ転嫁したところ、得意先の購買意欲が減退」(建材・家具、窯業・土石製品卸売)と、円安による物価高が個人消費、企業の仕入れや設備投資に悪影響を与えている。


    一方で、「海外販売は円建てでずっと回収しているので、円安の影響はない。また海外の取引先にはメリットがある」(機械・器具卸売)、「主要荷主の自動車メーカーの生産が上向くので、円安のまま安定する方が有り難い」(運輸・倉庫)と円安を前向きに捉える企業も一部みられた。


    円安が自社の業績に与える影響
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  2. 適正な為替レート、「120円台」が3割で最高、「110円台」が2割で続く

    自社にとって適正な為替レートの水準はどのくらいか尋ねたところ、「120円以上~130円未満」が28.9%と最も割合が高く、次いで「110円以上~120円未満」(21.2%)が続いた。半数の企業(50.1%)が「1ドル=110円~120円台」を適正な水準と考えており、足元の1ドル=156円(5月15日17時時点)とは大幅なかい離がある。

    海外で縫製をしているので大打撃。今でも少ない利益が飛んでしまう」(繊維・繊維製品・服飾品製造)、「海外子会社とのやりとりにおいてレートが悪すぎる」(輸送用機械・器具製造)といった現状の円安水準での企業活動は厳しいとの声が多数あげられた。


    また、「輸入と輸出をしているので円安は輸出には良いが、輸入は厳しい。120円~130円で落ち着くとビジネスがしやすく、これから先の予測もできる」(鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売)と安定した為替相場を望む声も寄せられた。


    他方、「日本は製造立国である。輸出産業が潤えば、国全体が栄える」(情報サービス)、「国内需要がおよそ8割以上であるため、円安によるインバウンドの好影響は間接的な需要喚起につながる」(機械・器具卸売)と、円安による輸出面での好調に加えてインバウンド消費の活発化を歓迎する声も一部で聞かれた。


    自社にとって適正な為替レートの水準
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  3. まとめ

    本アンケートの結果、昨今の円安を受けて、全体の63.9%が「利益にマイナスの影響」を受けていることが分かった。さらにそのうちの半数、全体の3割超の企業が「売上高・利益ともにマイナスの影響」を受けている。

    自社にとって適正な為替レートは「1ドル=110円~120円台」と半数の企業が考えており、足元の為替相場は大幅な円安水準にある。また輸出入の有無を問わず、適正な為替レートに大きな差はなかった。


    円安は輸出企業の利益を押し上げる一方で、輸入依存度の高い内需型産業などでは原材料やエネルギー価格の上昇による物価高をさらに加速させる。こうした上昇分を自社の商品・サービス価格へ十分に転嫁することは厳しいうえ、物価がいっそう上昇すれば家計の負担が増えて消費意欲が減退し、企業の設備投資意欲も低迷する。


    企業からは急速な円安への対策や為替相場の安定を望む声が出ている。また、円安による原材料などの価格上昇分を十分に転嫁できる機運を高め、継続的な賃上げによる消費拡大、設備投資の増加という好循環へつなげていく必要があるだろう。


    【企業からのコメント】

    • 都内の広告代理業のため為替の影響は少ないものの、どちらかと言えば輸入企業の業績が良い方が、国内での広告活動が活発になるので、円高の方がうれしい(広告関連)
    • 今までは円安に振れれば輸出をベースにそれなりに利益はプラスであったが、今回のように振れ幅が大きくなりすぎると、輸入に頼る製品類に関しては相当の差損がでる(機械製造)
    • 従業員の中で外国籍の人が多いが、彼らは円安になると給与が目減りすることになるため、外国籍の人材の採用が難しくなる(情報サービス)
    • 海外調達を増やしてきた結果、円安で仕入れ原価が高くなったが、競合のため売価に上乗せできず利益が出ない(機械製造)
    • 輸入企業であるが、1ドル=120円~130円ぐらいであれば利益を確保できる (機械・器具卸売)
    • 不安定な通貨では経営・計画も不安定 (繊維・繊維製品・服飾品卸売)
    • 原材料を輸入しているため為替の影響が非常に大きい。為替は政府が自由にできるものではないとはいえ、急激すぎる円安には何かしらの対応をしてもらいたい (建設)
    • 内需がほぼ100%なので、為替が業績に直接影響することはないが、エネルギー価格の高騰など間接的に利益の減少につながる要因となる。よって、現行の為替レートは「行き過ぎた円安」と認識しており、早急な是正が望まれる(専門サービス)
    • 輸入企業なので(円安は)仕入れコストを直撃する。対策として為替予約を実施しているが、最近は為替の動きが激しいため、思うような為替水準で予約ができない (輸送用機械・器具製造)
    • 原材料の価格高騰分を全く価格転嫁できていない。その対策として、原材料の見直し、LEDへ変えて電気代の削減、包装資材のまとめ買いでコストを抑えるほか、補助金・助成金を活用する(繊維・繊維製品・服飾品製造)


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