人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)
企業の約5割で人手不足、2020年2月と同水準まで上昇
~ 非正社員は「飲食店」など個人消費関連の業種で高い傾向に ~
~ 非正社員は「飲食店」など個人消費関連の業種で高い傾向に ~
2021年12月の有効求人倍率は1.16倍となり、低水準ながらも足元で緩やかな上昇傾向となっている。また、2022年1月に帝国データバンクが実施した「2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査」によると、企業の54.6%で2022年度中に正社員の賃金改善が見込まれる一方、その理由として76.6%の企業で「労働力の定着・確保」をあげるなど、今後人手不足が再び企業の懸念材料になるとみられる。
そこで帝国データバンクは、人手不足に対する企業の見解について調査を実施した。
- 調査期間は2022年1月18日~2022年1月31日、調査対象は全国2万4,072社で、有効回答企業数は1万1,981社(回答率49.8%)。なお、雇用の過不足状況に関する調査は2006年5月より毎月実施しており、今回は2022年1月の結果をもとに取りまとめた。
調査結果
- 企業の47.8%で正社員が人手不足、2020年2月と同水準まで上昇
現在の従業員の過不足状況を尋ねたところ(「該当なし/無回答」を除く)、正社員について「不足」していると回答した企業は47.8%(前年同月比11.9ポイント増)となった。新型コロナウイルスの影響を受けて、大きく低下していた企業の人手不足感は、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年2月と同水準まで上昇している。一方、過不足状況が「適正」と回答した企業は42.0%(同4.5ポイント減)、「過剰」と回答した企業は10.3%(同7.3ポイント減)とそれぞれ低下している。
従業員の過不足感
また、「不足」している企業を業種別にみると、「情報サービス」(65.7%)、「飲食店」(65.1%)、「建設」(62.6%)、「メンテナンス・警備・検査」(60.8%)、「農・林・水産」(60.6%)など7業種において、正社員が不足している企業は6割を上回っていた。
正社員が「不足」している上位10業種
IT人材の不足が問題になっている「情報サービス」の企業からは、「ビジネスアプリケーション制作の案件が増えてきているが、1つの案件が1~3年程度のスパンであるため、人手不足で仕事が取れないことが多い」(ソフト受託開発)など、人手不足の背景に開発期間の長さなども要因としてあげられている。
また、職人の高齢化など人手不足が続いている「建設」の企業からは、「引合いの減少や材料の高騰、人手不足などを実感している」(一般土木建築工事)、「資材、人手不足に加えて、仕事の件数もほとんど無い」(信号装置工事)など、人手不足だけでなく、ウッドショックやアイアンショックなどによる建材の不足も業務に影響を及ぼしている。 - 非正社員の人手不足は28.0%、「飲食店」は唯一の7割台と厳しい状況が続く
非正社員が「不足」していると回答した企業(「該当なし/無回答」を除く)は28.0%(前年同月比8.9ポイント増)となった。正社員の人手不足割合と同様に、非正社員も新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年2月を上回る水準まで上昇している。また、過不足状況が「適正」と回答した企業は63.2%(同2.1ポイント減)、「過剰」と回答した企業は8.7%(同6.8ポイント減)となり、それぞれ低下した。
業種別にみると、「飲食店」(76.6%)は唯一7割以上の企業で非正社員が不足していると回答。「飲食店」は2021年10月調査時点で63.3%まで上昇していたが、その後も上昇傾向が継続。2022年1月は、再びまん延防止等重点措置による影響もみられ、2021年12月から1.4ポイント減となったものの、依然として高水準で推移している。企業からも「人手不足がどんどん加速している」(中華料理店)といった声があげられた。
飲食店の人手不足割合
非正社員が「不足」している上位10業種
また、「人材派遣・紹介」(51.7%)は足元で5割を上回る水準で推移。「オミクロン株の影響はまだなく、派遣需要は旺盛。ただし、人手不足は変わらないため、採用コストは上昇傾向」(労働者派遣)、「人手不足は当社にとってはチャンスである」(民営職業紹介)といった声が聞かれた。
非正社員が不足している業種をみると、「飲食店」に加えて、「娯楽サービス」(50.8%)、「飲食料品小売」(49.4%)、「旅館・ホテル」(47.6%)など、個人消費関連の業種が上位に並ぶ。
さらに、「仕事量自体は大きく落ち込んではいないが、新型コロナウイルスの影響により、技能研修/実習生の入国が叶わず在籍人数が半減しており、人手不足により混乱が生じている」(普通倉庫)、「縫製工場は、その縫製工員のウエイトを技能研修/実習生に依存している実情のなか、受入れが停止しているために生産力が激減しており、注文があっても受けられない」(成人女子・少女服製造)など、業種によっては海外からの技能研修/実習生の入国制限による影響もみられる。
まとめ
国内景気はオミクロン株の感染拡大を受けて、一時的な落ち込みがみられるものの、今後はその感染抑制とともに緩やかな回復が見込まれる。そうしたなか、本調査によると47.8%と半数近い企業で、正社員が不足しているとの認識を示していた。また、アルバイトやパートなどの非正社員も、「飲食店」などの個人消費関連で不足の割合が高まってきている。今後はこうした人手不足や、さらに原材料の不足・価格高騰などが企業の供給制約となり、国内景気の下振れリスクとなる可能性が高い。
本調査と同時に実施した「2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査」によると、企業の54.6%で正社員の賃金改善が見込まれている。特に、正社員が「不足」している企業に限ってみると、賃金改善があると見込む企業は62.4%となり、「適正」(51.1%)や「過剰」(41.1%)と比べて高い傾向がみられた。人手不足を解消する手段として、今後企業が賃金改善に取り組むことが期待される。
一方で、日本国内においては少子高齢化による人口減少が継続するとみられ、今後企業の人手不足感はより高まっていくとみられる。企業においては、賃金改善だけでなくDX(デジタル・トランスフォーメーション)へ取り組むことで、人手不足を解消していくことが求められる。しかし、帝国データバンクが2021年12月に実施した「DX推進に関する企業の意識調査」によると、50.6%の企業でDXに取り組むうえで「対応できる人材がいない」ことを課題にあげている。人手不足が進むなか、DXに対応できる人材をいかに採用・育成していくかが、今後の人手不足解消のカギとなろう。
【内容に関する問い合わせ先 】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:杉原 翔太
TEL:03-5919-9344
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