“脱炭素社会”の企業への影響調査(2023年)

脱炭素社会、企業に「プラスの影響」は14.1%
~ 実感乏しく、「影響はない」「分からない」が約7割 ~

世界規模で起きている異常気象の原因とされる地球温暖化に対し、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言。これまでロードマップの策定や法律の制定、「脱炭素化支援機構」の設立など具体的な取り組みを行ってきた。


環境省と国立環境研究所が今年4月に発表した「2021年度の温室効果ガス排出・吸収量」は、2020年度比で2.0%増加したものの、2013年度比では20.3%減少し、一定の進捗がみられる。また、8月には脱炭素関連政策を推進する「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」において、脱炭素社会の実現に向けた2024年度予算案の概算要求に、総額1兆2000億円以上を盛り込むことを報告。民間企業の投資や取り組みを加速させる方針も確認された。


そこで、帝国データバンクは、“脱炭素社会”が企業へ及ぼす影響についてアンケート調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年7月調査とともに行った。

  • 調査期間は2023年7月18日~31日、調査対象は全国2万7,768社で、有効回答企業数は1万1,265社(回答率40.6%)。脱炭素社会に関する調査は、2021年6月、2022年7月に続いて今回で3回目
  1. 脱炭素社会の進展、「プラスの影響」は14.1%、「影響はない」「分からない」が約7割

    脱炭素社会の進展は今後、自社の事業にどのような影響があると考えるか尋ねたところ、「プラスの影響」があるとした企業は14.1%だった。過去に実施した同様の調査から進展はなかった(2021年:14.8%、2022年:14.0%)。


    他方、「マイナスの影響」とした企業は17.3%で、2022年(19.5%)からは2.2ポイント低下したが、「プラスの影響」がある企業を3.2ポイント上回った。


    なお、「影響はない」(33.8%)、「分からない」(34.9%)で、合わせて7割近くを占め、脱炭素社会の進展に実感が乏しい状況といえる。

    脱炭素社会の進展による事業への影響

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  2. 自動車関連業種で「マイナスの影響」が目立つ

    脱炭素社会の進展により「プラスの影響」があるとした企業を主な業種別に分析すると、「再生資源卸売」が29.4%で最も高かった。次いで、「農・林・水産」(25.2%)、「家電・情報機器小売」(25.0%)が続いた。

    「マイナスの影響」 では、ガソリンスタンドなどを含む「専門商品小売」が49.8%で最も高く、全体(17.3%)を32.5ポイント上回った。


    次いで、「輸送用機械・器具製造」(38.1%)、「自動車・同部品小売」(36.9%)、「運輸・倉庫」(33.0%)が続き、自動車関連業種での「マイナスの影響」が目立った。


    企業からは、「脱炭素社会の資源循環の輪の1つが自社の事業そのもの」(再生資源卸売、香川県)といった声がある一方、「大打撃、致命傷になるが、世の中全体を考えたら脱炭素化は重要課題だと思う」(ガソリンスタンド、栃木県)といった、「マイナスの影響」を感じつつも取り組まなければならないと考えている意見も聞かれた。

    脱炭素社会の進展による事業への影響 ~主な業種別~

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  3. 規模の小さな企業ほど「影響はない」「分からない」が高まる傾向に

    従業員数別にみると、「1,000人超」で「プラスの影響」が35.0%を占め、規模が大きくなるほど「プラスの影響」が高くなった。

    他方、規模が小さくなるほど「影響はない」「分からない」の割合が高まる傾向がみられた。

    とりわけ規模の小さな企業からは、「取引先から対応を迫られたらやるが、現在は予定なし」(不動産、大阪府)といった声や、「これと言って変えたいことも変わったこともない。零細企業には難しい問題ばかりだ」(飲食料品卸売、東京都)といった声が聞かれた。

    脱炭素社会の進展による事業への影響 ~従業員数別~

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  4. まとめ

    本調査の結果、脱炭素社会の進展により、「プラスの影響」があると回答した企業が14.1%、「マイナスの影響」があると回答した企業が17.3%だった。業種別にみると、バイオマス燃料やガソリンスタンド、EV化が進む自動車関連など現時点で直接的な影響のありそうな業種が多く占めた。

    一方、「影響はない」と回答した企業が33.8%、「分からない」と回答した企業が34.9%、合わせて7割近くが実感に乏しい結果となった。従業員数別では、規模が大きくなるほど「プラスの影響」があると考え、小規模であるほど「影響はない」「分からない」と考える企業は多くなった。


    「マイナスの影響」が「プラスの影響」を上回り、さらにそれ以上に「影響はない」「分からない」が上回る結果から、脱炭素社会の進展に対する実感が乏しい企業が多く、各社への直接的な影響が出るのはしばらく先になりそうだ。


    地球環境に関心の高い海外企業を中心にサプライチェーン全体で「脱炭素経営」に取り組む姿勢が広まるなか、国内企業も大企業にとどまらず、脱炭素への取り組みが求められ、中小企業に至るまでのすそ野の広い仕組みづくりが急がれる。



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