健康経営への取り組みに対する企業の意識調査
「健康経営」に取り組む企業が5割超、半数は職場の喫煙対策
~ メンタルヘルス不調への対応急務、検診結果のデータ分析ニーズ高く ~
~ メンタルヘルス不調への対応急務、検診結果のデータ分析ニーズ高く ~
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」が広がり始めて久しい。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や株価の改善につながると期待される。さらに健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つとなっている。
他方、人手不足が深刻化するなかで、健康の不調により人員が減少することのリスクもかつてなく高まっている。
そこで帝国データバンクは、健康経営に対する取り組み状況やメンタルヘルスの不調などについて調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年9月調査とともに行った。
- 調査期間は2023年9月15日~30日、調査対象は全国2万6,991社で、有効回答企業数は1万1,039社(回答率40.9%)
- 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
調査結果
健康経営に取り組んでいる企業は56.9%、従業員数が多いほど高く
健康経営について、「取り組んでいる」企業は56.9%となり、半数を超える企業が従業員の健康管理について何らかの対応策を行っていた。一方で、「取り組んでいない」企業は26.7%だった。健康経営への取り組み状況 健康経営に「取り組んでいる」企業の割合を従業員数別にみると、「1,000人超」(82.6%)は「5人以下」(40.7%)を2倍以上上回るなど、従業員数が多くなるほど取り組む企業の割合が高くなる傾向がみられた。
健康経営に「取り組んでいる」割合~従業員数別~
具体的内容、「定期健康診断の実施」が9割、「職場の喫煙対策の実施」も5割
健康経営に「取り組んでいる」企業に対して具体的内容を尋ねたところ、「定期健康診断の実施」が88.4%でトップとなった。次いで、「職場の喫煙対策の実施」(47.3%)、「労働時間・労働密度など心身の過重負荷要因の改善」(43.0%)、インフルエンザの予防接種や特別休暇付与など「感染症対策の実施」が4割台で続いた。さらに、「メンタルヘルスに関する対策」(39.3%)も上位にあげられた。
一方、「経営上の重要課題として認識し具体的に目標設定している」や「すべての従業員に対する健康経営に関する教育の実施」、株主や取引先を含め「自社の健康経営の推進を社外へ発信している」などはともに1割台だった。
取り組みの具体的内容(複数回答、上位10項目) 企業からは、
- 「毎月1回健康に関する情報を従業員に配布している」(娯楽サービス)
- 「地元医師会から、健康診断の結果をもとに個々に対する指導を頂いている」(建設)
- 「保険会社提供の健康サポートプログラムに加入している」(建設)
取り組んでいない理由、「適当な人材確保が困難」が39.0%でトップ
新健康経営に「取り組んでいない」企業に対してその理由を尋ねたところ、「適当な人材確保が困難」が39.0%で最も高かった。さらに、「効果的な実施方法が分からない」(37.3%)が3割台で続いたほか、「費用対効果が分からない」「(取り組むための)時間確保が困難」「取り組みの成果が見えにくい」「経費がかかる」がいずれも2割を超えた。
取り組んでいない理由(複数回答) 企業からは、
- 「従業員の平均年齢が高くないため、そもそも関心が低い」(金融)
- 「取り組みたくとも、人手が足りない。そこまでの余裕がない」(建設)
- 「生産性の向上に繋がるか疑問」(飲食料品・飼料製造)
企業の21.0%でメンタルヘルス不調の従業員あり、過重労働時間も1割超
自社において、過去1年間で「過重労働時間となる労働者」[1]や「メンタルヘルスが不調となる労働者」[2]がいたかどうか尋ねた。「過重労働時間となる労働者」が「いる」企業は10.2%となり、1割を超えた。また、「メンタルヘルスが不調となる労働者」が「いる」企業は21.0%と、5社に1社でメンタルヘルス面の不調を抱える労働者がいることが明らかとなった。
特に従業員数が多くなるほど割合は高くなる傾向があり、なかでも「1,000人超」の企業では、過重労働時間が35.5%、メンタルヘルス不調は62.0%に達した。少数の従業員においては過重労働やメンタルヘルス不調による一人一人に与える影響が大きくなる一方、大手企業では多くの企業でこれらへの対応が重要な経営課題となっている様子がうかがえる。
過重労働時間/メンタルヘルス不調の有無
~従業員数別~ 企業からは、
- 「メンタルヘルスの対応に苦慮している」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
- 「従業員数が多く、現場での社員同士のコミュニケーションが重要な職場なので、メンタルヘルスに関する相談や面談などには、既にかなり力を入れている」(事業サービス)
- 「ストレスチェックやメンタルヘルスの相談窓口も第三者と契約している。超過勤務も全社平均で12~13時間/月になるように管理している。ユースエール(若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度)の認証も取得しており、会社としてやるべきことは全てやっていると考えている」(情報サービス)
- 「メンタルヘルスによる離職は、経営上大きなリスクとなりうるため、重要であると考えている」(建設)
導入したい健康保持サービス、「健診結果のデータ化・管理、分析」が25.5%でトップ
自社において、健康経営の一環として導入したい健康保持・増進サービスについて尋ねたところ、「健診結果のデータ化・管理、分析」が25.5%で最も高く、「メンタルヘルスに関する各種チェックの策定・実施」(20.9%)が2割台で続いた。健診結果のデータ分析とともに、メンタル面での健康状態のチェックを求めている様子がうかがえた。以下、「ストレスチェックに関する運営」(19.9%)や「従業員に対する教育研修」(19.2%)、「健診手配・精算代行」(18.2%)などが上位にあがった。
導入したい健康保持・増進サービス(複数回答、上位10項目)
まとめ
労働者の高齢化が進むなか、従業員の健康管理が企業の重要な経営課題と捉えられるようになって久しい。労働災害の予防や生産性・効率性の向上を目的に「健康経営」の考え方に基づいて事業活動を行う動きも高まっている。本調査からは、企業の6割近くが健康経営に取り組んでいることがわかった。その内容は、法的に義務付けられているものだけでなく、職場の喫煙対策や心身の過重な負荷軽減策など、多岐にわたっている様子がうかがえた。
一方で、取り組んでいない企業では、人材確保が困難なことや効果的な実施方法が分からないことのほかに、費用対効果が見えにくいことも理由にあげられている。政府には企業が抱える課題を細かく分析し、解消していくための施策が求められよう。
また、今回の調査で過去1年間にメンタルヘルス不調の従業員がいる企業が2割超にのぼることがわかった。特に従業員数が1,000人を超える企業では6割以上に達しており、大手企業ほど自社におけるメンタルヘルスの問題に直面していることも浮き彫りとなった。
健康経営の一環として導入したいサービスとして、従業員の健康診断結果に対するデータ分析やメンタルヘルスに関するチェック体制の構築が上位にあがり、現状把握や予防に対する意識が高まっていると言えよう。労働者の高齢化や人手不足が今後も予想されるなかで、企業経営において「健康経営」の重要性が一段と増していくとみられる。
[1]過重労働時間は、「1カ月に100時間を超える時間外・休日労働」として回答。
[2]メンタルヘルス不調は、「精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むもの」として回答。
【内容に関する問い合わせ先】
株式会社帝国データバンク 情報統括部
担当:窪田剛士
TEL:03-5919-9343
E-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
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